日本神経筋疾患摂食・嚥下・栄養研究会

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摂食嚥下支援チーム介入で見えてきた課題(2021/12)

当院は回復期リハビリテーション病棟を持つ一方、パーキンソン病センターでもあり神経難病患者を多く抱える病院で、脳卒中後の回復していく嚥下障害とは異なり介入により一時的に良くなっても病気の進行と共にやってもやっても最終的に悪くなっていく嚥下障害に苦闘している。
当院ではビデオ嚥下造影VFも1990年頃から行われ摂食機能療法の診療報酬が認められる以前から病棟にコアナースを置いて摂食嚥下委員会が嚥下チームとして活動し地域にも発信してきた。摂食・嚥下障害看護認定看護師以外にも院内認定した看護師(認定院内看護師)もいて、さらに2020年に診療報酬改定を受けて摂食嚥下支援チームを立ち上げ、日本摂食嚥下リハビリテーション学会にもチーム活動を報告した1)。
残念ながら摂食嚥下障害に良く効くと実感できる薬はまだない。問題ある薬はないか、食事体位、食形態、口腔ケア、栄養量、日中の活動、リハビリテーションなど嚥下評価をしつつ細かく調整し介入していく。
しかし離床、口腔ケアなど嚥下介入一つ一つに時間と労力がかかり、口から食べることに、労力に見合うだけの価値を認めていないと疲弊して続けられない。病棟のスタッフの意識、価値観が現れる。病棟や他の院内スタッフの気持ちは表面に出るから向き合っていけば意識や価値観も変わるかもしれない。少なくともそう思って向き合っている。
経口摂取を望む患者、家族があり退院後にWeb診療で協力してくれる訪問スタッフさんがいる一方で、経口摂取ができても体位、食形態などで注文が多いと退院先の施設から受け入れられない。口から食べることの価値は昔からすると徐々に認められるようになり一部では当然のこととして受け入れられていてもまだまだ地域で受け入れられていない現実がある。いくら病院で良くなっても地域に戻れないケースも少なくない。
カンファレンスを通じ病院、地域のスタッフとより密に接し摂食嚥下、食べることへの意識、価値観自体と向き合ったことで、まだまだ多くの人達に食べることへの意識、価値観が少しづつであっても認められていくような継続的努力の必要さを痛感する。

NHO鳥取医療センター 金藤大三

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202112163 図表はいずれも(1)の発表スライドより

1)摂食嚥下支援チームの取り組み 橋本由美子、金藤大三、森智美、光山忠史、中村真由美、橋本秀次 (第26・27回日本摂食嚥下リハビリテーション学会学術大会にて発表)

摂食姿勢の工夫 ~パーキンソン病およびパーキンソン症候群~(2020/06)

パーキンソン病およびパーキンソン症候群の患者さんによくみられる前傾、前屈姿勢はどのようにして起こっているのでしょうか?前傾・前屈姿勢は、図1a)のように、膝・股関節が屈曲し骨盤が後傾し腰椎の生理的前弯の減少から胸・腰椎が後弯(体幹が前屈)、頸椎が前弯(過伸展)して、顎が前方にやや突き出した姿勢です。
この姿勢で座位をとると、図1b)のようにオトガイー胸骨柄間距離が延び、前頸部の効率的な筋収縮が阻害され、喉頭(舌骨)挙上が困難となり、誤嚥に至る危険性が高まります。

202006zu1202006zu2

この状態を背もたれのない座位でみると、図2a)のように、頸、背、202006zu3

腰部の筋が姿勢を崩さないように「頑張っている」ため、骨盤が

後傾し、下部体幹が後方へずれ円背となって頭部が胸郭から前方へ

出るため顎が前方へ突き出した姿勢になります。

対応として、図2b)のように椅子や車いすの座面にクッションを入れ、骨盤の後傾を修正し、骨盤の上に胸郭、頭部が乗るように整え頸部前屈位を引き出すと、オトガイー胸骨柄間距離が短縮され、各嚥下機能を働きやすくすることができます。この時のクッションの入れ方は図3のとおりです。骨盤周囲筋の固縮や股関節の拘縮などにより座位が取りにくい場合は、ティルト型車椅子やベッド上リクライニングで背もたれにもたれた後傾位にし、頭部の安定を枕やクッションで調整します。頭、胸郭、骨盤、下肢の位置関係を整えると、嚥下をスムースにできる場合もあります。

また、咀嚼や口腔内の移送がしにくいといった口腔期の問題への対応としても、機能に合わせた食物形態の工夫とともに姿勢調整も役立ちます。摂食に時間がかかるために疲労し摂取量が減る、誤嚥や窒息を引き起こすというトラブルを防ぐためにも有効な工夫です。

以上のような視点で、状況に合わせた対応が功を奏することがありますが、摂食は、常に身体を動かす活動です。どこかを動かすことで姿勢にも変化が現れます。その変化を見逃さず動きにあわせて、動きを阻害することなく安定できる姿勢をみつけながら進めることが肝要です。また、ここでは姿勢の取り方を解説しましたが、咽頭残留を引き起こさないように、各種嚥下法2)を活用することも有効です(図4参照)。

四肢・体幹の筋緊張の評価や工夫、姿勢の取り方については、理学療法士、作業療法士の方々が専門性を発揮されます。個別性も高いことですので、状況に応じて相談されることをお勧めします。

202006zu4

参考文献

1)   石本 寧:言語聴覚士のためのパーキンソン病のリハビリテーションガイド(杉下周平他編).東京.協同医書;82-5、2019

2)  日本摂食嚥下リハビリテーション学会医療検討委員会:訓練法のまとめ(2014版).日摂食嚥下リハ会誌18:55-89、2014

埼玉県総合リハビリテーションセンター

言語聴覚科 清水充子

 

摂食姿勢の工夫 ~パーキンソン病およびパーキンソン症候群~(2020/06)

パーキンソン病およびパーキンソン症候群の患者さんによくみられる前傾、前屈姿勢はどのようにして起こっているのでしょうか?前傾・前屈姿勢は、図1a)のように、膝・股関節が屈曲し骨盤が後傾し腰椎の生理的前弯の減少から胸・腰椎が後弯(体幹が前屈)、頸椎が前弯(過伸展)して、顎が前方にやや突き出した姿勢です。
この姿勢で座位をとると、図1b)のようにオトガイー胸骨柄間距離が延び、前頸部の効率的な筋収縮が阻害され、喉頭(舌骨)挙上が困難となり、誤嚥に至る危険性が高まります。

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この状態を背もたれのない座位でみると、図2a)

のように、頸、背、腰部の筋が姿勢を崩さないよう

に「頑張っている」ため、骨盤が後傾し、下部体幹

が後方へずれ円背となって頭部が胸郭から前方へ出

るため顎が前方へ突き出した姿勢になります。

対応として、図2b)のように椅子や車いすの座面

にクッションを入れ、骨盤の後傾を修正し、骨盤の

上に胸郭、頭部が乗るように整え頸部前屈位を引き

出すと、オトガイー胸骨柄間距離が短縮され、各嚥

下機能を働きやすくすることができます。この時の

クッションの入れ方は図3のとおりです。骨盤周囲

筋の固縮や股関節の拘縮などにより座位が取りにく

い場合は、ティルト型車椅子やベッド上リクライニングで背もたれにもたれた後傾位にし、頭部の安定を枕やクッションで調整します。頭、胸郭、骨盤、下肢の位置関係を整えると、嚥下をスムースにできる場合もあります。

また、咀嚼や口腔内の移送がしにくいといった口腔期の問題への対応としても、機能に合わせた食物形態の工夫とともに姿勢調整も役立ちます。摂食に時間がかかるために疲労し摂取量が減る、誤嚥や窒息を引き起こすというトラブルを防ぐためにも有効な工夫です。

以上のような視点で、状況に合わせた対応が功を奏することがありますが、摂食は、常に身体を動かす活動です。どこかを動かすことで姿勢にも変化が現れます。その変化を見逃さず動きにあわせて、動きを阻害することなく安定できる姿勢をみつけながら進めることが肝要です。また、ここでは姿勢の取り方を解説しましたが、咽頭残留を引き起こさないように、各種嚥下法2)を活用することも有効です(図4参照)。

四肢・体幹の筋緊張の評価や工夫、姿勢の取り方については、理学療法士、作業療法士の方々が専門性を発揮されます。個別性も高いことですので、状況に応じて相談されることをお勧めします。

202006zu4

参考文献

  • 石本 寧:言語聴覚士のためのパーキンソン病のリハビリテーションガイド(杉下周平他編).東京.協同医書;82-5、2019
  • 日本摂食嚥下リハビリテーション学会医療検討委員会:訓練法のまとめ(2014版).日摂食嚥下リハ会誌18:55-89、2014

 

 

埼玉県総合リハビリテーションセンター

言語聴覚科 清水充子

美味しい嚥下調整食を目指してー京都での取り組み(2015/08)

嚥下調整食は摂食嚥下訓練には欠かせないものであるが、見た目や味には制限があり、継続して食べることが困難となる患者が多い。京滋摂食・嚥下を考える会(以下、当会)では、日本料理アカデミーや京都府生菓子協同組合など(以下,専門家)と協力して、嚥下調整食をより美味しく作成し、新たな食文化として構築するために活動している。

専門家と管理栄養士・調理師・医師・言語聴覚士等の多職種が参加して勉強会を行って知識の共有を図り,作成技術,味,形状などの検討を行ってきた。各施設で実際に提供されている嚥下調整食と専門家が試作した嚥下調整食を持ち寄り、意見交換を重ねて改善を図った。専門家からは調理のデモストレーションや調理実習会を通じて調理技術を学んでいる。

病院食としては高価であるため普段の提供は困難であるが,「ハレの日」に美味しい嚥下調整食を味わうことができる。そこで,京料理や和菓子の嚥下調整食を提供するイベントを敬老の日や節分などに京都府内の施設で開催した(図1,2)。和菓子では物性測定を施行して嚥下の病態に応じた食品提供を目指しており,今後は商品化も視野に入れている。和食・和菓子

この活動では多施設・多職種の参加により地域連携を深めることにもつながっている。また,メディアにも取り上げられ、摂食嚥下障害と嚥下調整食について一般市民が関心をもつ契機となっている。食の力・食支援の重要性が実感される。

他にも介護食器を漆や陶器などの和食器で作成し,食べやすく,食の楽しみを味わうことができるよう取り組み始めている。今後も地域で嚥下障害患者を支える取り組みを続けていきたいと考えている。

京都第一赤十字病院 巨島文子