日本神経筋疾患摂食・嚥下・栄養研究会

「情報共有は窒息事故防止のかなめ」(2021/08)

窒息で生命を落とす人は年間約9000人.その数は15年以上変わっていません.窒息事故は,嚥下障害による機能低下やかきこみ食べなどの食行動の変容だけではなく,介助者間の情報の行き違いによっても起こります.患者の現在の食形態や食行動についての情報収集不足や情報共有不足が要因となることがあるのです.
昨年,当院で窒息事故が発生しました.その原因をつきつめていくと,介助者が患者の情報を十分に把握できていなかったことと介助者間での情報共有が不十分だったことがわかりました.必要な情報が伝えられなかったことにより,大きな事故につながってしまいました.「1件の重大な事故が起こるまでに29件の軽微な事故があり,300件のヒヤリハットが起こっている」という「ハインリッヒの法則」がありますが,まさにその通りになってしまったわけです.逆に言えば,この小さな情報のやりとりを丁寧に行うことで,窒息事故を減らせる可能性があるということです.義歯の使用の有無,食事介助の方法や注意点,食事摂取量,体重減少の有無,窒息や誤嚥性肺炎の既往など,ごくごく当たり前の情報を確実に取る,そしてその情報を関わるスタッフ全員と共有することが大切です.当院ではこの苦い経験から,現在は看護師間で入院時の情報共有を徹底し,窒息事故防止に努めており,窒息事故の効果的な防止策も検討中です.
患者の食事摂取に直接関わる看護師や介護士が,患者の症状や,摂食嚥下に関する情報を正確に把握し,その情報を関係者全員で共有することで,窒息事故が少しでも減少することを願います.

国立精神・神経医療研究センター 看護部

臼井 晴美