日本神経筋疾患摂食・嚥下・栄養研究会

カフ付きスピーチカニューレを正しく使えていますか?(2019/01)

嚥下障害により気管切開を行った場合、誤嚥物の下気道への流入を防ぐために、まずはカフ付きの気管カニューレを使用することが一般的だと思います。カフ付き気管カニューレの問題点として、発声が不可能な点があります。臨床の現場では少量ながら誤嚥があるけれど、リハビリテーションや家族とのコミュニケーションのため発声させたいという状況もあると思います。そのような場合にカフ付きのスピーチカニューレを活用します(図1)。チューブの部分が二重管(複管)となっており、外筒の背の部分にスピーチカニューレと同様に呼気が抜けるための穴(側孔といいます)が開いています。声を出してもらうためには、内筒を抜いて一方弁であるスピーチバルブを装着します(穴の開いた内筒に入れ替えるタイプもあります)。具体的には、多系統萎縮症の患者さんに声帯運動障害の出現し気管切開をしたものの、不顕性誤嚥(誤嚥してもむせない状態)があるため、カフ無しのスピーチカニューレでは少し心配、というような状況が想定できます。また、通常のカフ付き気管カニューレと同様に人工呼吸器を接続できるため、夜間だけ呼吸アシストが必要な筋萎縮性側索硬化症などの患者さんでも使用できるかもしれません。
カフ付きスピーチカニューレの問題点としては、二重管であるため、チューブ内腔がやや狭くなることと(直径が約1ミリ細くなります)、側孔が気管孔の肉芽で閉塞してしまうことが挙げられます。チューブ内腔が狭くなると痰で閉塞したり、吸引しにくくなりますが、二重管である利点を生かして、早めに内筒を抜いて洗浄すれば、ほとんど問題は生じません。
側孔の閉塞は気管孔の肉芽が気管内に張り出したり(図2)、気管孔が深い場合に生じます。カフの無いスピーチカニューレでしたら、チューブの周囲からも呼気が抜けますので、患者さんは何も訴えないことが多いですが、カフがあるとチューブの周囲から呼気が抜けないので、患者さんは息を吐くことができず、苦しくなります。実際にはカフの周囲から呼気が辛うじて抜けて、声が出てしまい、なかなか気づかれないこともあります。
肉芽で側孔が塞がっていることを確認する一番良い方法はファイバースコープで観察することですが(図3)、使用できない施設では、その可能性を疑って装着時にちゃんと声が出るか、苦しそうにしていないか観察すること重要です。特に気管孔の肉芽が外表部から観察される場合や、体格が良く気管孔が深い場合は要注意です。
もし側孔が肉芽で塞がっている(ことが疑われる)場合に、どうしてもカフ付きのスピーチカニューレを使用したいならば、スピーチモードにするときにカフを脱気して、カフ無しのスピーチカニューレと同様な形としてしまうことで対応できます。ただし、誤ってカフエアを注入してしまうスタッフがいるかもしれませんから、職場内の理解や情報伝達が重要になってきます。
上記以外に、側孔自体による肉芽への刺激や、カニューレ交換時のひっかかり、肉芽の切断による出血なども問題となりますので、長期的に使用する必要がある場合は耳鼻咽喉科で気管孔形成手術を行うことが望ましいです。

東京大学医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科
二藤隆春

 

図1 カフ付きスピーチカニューレ
(コーケンネオブレス・スピーチタイプ®)

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図2 気管孔肉芽による側孔の閉塞
(二藤隆春、ほか:気管切開術におけるトラブルの予防と対策.JOHNS,2003)

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図3 カフ付きスピーチカニューレの内腔所見
肉芽により側孔が閉塞しており(矢印)、出血もみられる.

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