日本神経筋疾患摂食・嚥下・栄養研究会

サルコペニアと嚥下障害(2012/11)

2010年にEuropean Working Group on Sarcopenia in Older People (EWGSOP)が発表した定義によるとサルコペニア(sarcopenia)とは「骨格筋量の 低下に,筋力低下,もしくは運動機能の低下を伴った状態」になります[1].さらに EWGSOPは,筋肉量低下のみの状態をサルコペニア前段階(presarcopenia),筋肉 量の低下と筋力低下,そして運動機能の低下の3つがそろった状態を重度サルコペ ニア(severe sarcopenia)と分類しました.サルコペニアの診断アルゴリズム(図1) も提案されており,65歳を越えた高齢者では歩行速度が0.8m/秒より速く,握力が 低下し,骨格筋量が低下していればサルコペニアと診断されます.また,歩行速度 が0.8m/秒よりも遅く,筋力量が低下している場合にもサルコペニアと診断されま す.「歩行速度0.8m/秒」は徒歩1分で48mの移動距離になります.日本の不動産 表記の規程では徒歩1分は80mに相当しますから,サルコペニアではその6割程度 に運動速度が落ちていることになります.

 

サルコペニアは筋肉量と身体機能から定義した概念であるため,原因はさまざまで す.EWGSOPでは原発性サルコペニアとして加齢関連性サルコペニア,二次性サル コペニアとして活動量関連性サルコペニア,疾病関連性サルコペニア,栄養関連性 サルコペニアの3つを挙げました.骨格筋量の低下は嚥下障害患者にも起こりえま す.身体機能がサルコペニアの診断基準を満たす患者であっても,嚥下障害の原 因をサルコペニアとするには注意が必要です.実際,神経筋疾患では,しばしば運 動機能が低下し,骨格筋の萎縮も見られます.サルコペニアと診断された場合にも 嚥下障害の原因疾患の十分な検索が必要であるでしょう.

 

国立精神・神経医療研究センター病院神経内科 山本敏之

 

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図1 高齢者のためのサルコペニア診断アルゴリズム(文献1より)

 

1.Cruz-Jentoft, A.J., et al., Sarcopenia: European consensus on definition
and diagnosis: Report of the European Working Group on Sarcopenia in
Older People. Age and ageing, 2010. 39(4): p. 412-23.