日本神経筋疾患摂食・嚥下・栄養研究会

パンの窒息に注意(2017/06)

摂食嚥下障害患者のリスク管理として、上位に挙げられるのが、食物窒息・誤嚥・栄養障害・脱水である。中でも食物窒息は、生命にかかわるアクシデントであり、摂食嚥下医療にかかわる医療者として、常に患者家族教育とケアへの目配りをする必要がある。
少し古いが、実態を詳細に記載したデータをご紹介する

出典:「食品による窒息の現状把握と原因分析」 調査 平成19年度 厚生労働科学特別研究事業報告書)グラフへ改変出典:「食品による窒息の現状把握と原因分析」 調査 平成19年度 厚生労働科学特別研究事業報告書)グラフへ改変

20170615

救急センター 全国47都道府県204か所(H19) 371例

この中で注目すべきは「パン」の件数の多さである。
パンは、口腔咽頭内の移送時間が長いと唾液などの水分を吸って膨潤し、付着性の高い食塊となり、窒息のリスクが高まる。
当院の病院給食では、「パンはハイリスク食品」との認識のもと、嚥下障害の訴えがない患者さんでも、主治医の確認なしには提供されない仕組みになっている。さらに、「パンは喉に詰まらせることがありますので、十分注意してお召し上がりください」のコメントをつけている。しかし、在宅患者さんでは、パンの窒息リスクは必ずしも認識されておらず、「パンは柔らかいから大丈夫」と思っている患者家族は意外に多い。当院の嚥下外来で食形態について指導した患者さんでも、「パン」で窒息しそうになった事例があった。
朝食にパンを好む食習慣の方は多い。「調子が良いと好きなものを食べたい、食べさせたい」と思うのは当然の心理であり、その点も十分配慮した指導が必要である。窒息リスクの高い食品名を具体的にきちんと伝え、また、患者さんの好み(食べたいもの)を把握して細やかに指導することが必要である。

関西労災病院 神経内科 野﨑園子