日本神経筋疾患摂食・嚥下・栄養研究会

パーキンソン病と嚥下障害:最近の話題(2010/10)

 嚥下障害と流涎はパーキンソン病の主要な非運動症状である。前者は患者の50%~80%に、後者は75%に出現する。嚥下障害は誤嚥性肺炎を起こして死因となりうる。嚥下障害の機序については様々に推論されているが、実際には未だ不明であるというのが現実である。
 最近、抗パーキンソン薬であるL-ドーパでこの嚥下障害が果たして改善するかどうか、メタ解析が実施された(J Clin Pharm Ther. 2009 ;34:673-6.)。結果は否定的であった。
 もう一つの症状である流涎に関しては、なかなか良い手がないのであるが、時にボツリヌスが試みられることもある。しかし、ある患者さんの話印象的で、即ちチュウインガムで流涎が軽くなるというのである。ところが最近このチュウインガムの効果を臨床試験で確認した方があって、その結果が報告された。20例のパーキンソン病患者でチュウインガムを試験し、嚥下回数が増加し、嚥下の潜時は短縮したとのことである(Neurology. 2010 ;74:1198-202)。簡便な処置であるので、興味深いことではあるが、コンニャクゼリーで窒息した事例が一時マスコミで騒がれた問題もあって、チュウインガムの安全と材質には更にひと工夫される必要があろう。
 それにしても、こうした結果は、パーキンソン病における嚥下障害にドーパミン系以外の機能障害が加わる可能性をも示唆するものであるし、また、ガムの咀嚼・嚥下に対する効果からは、口腔粘膜などの末梢から中枢に向かう感覚運動刺激が嚥下の諸相、特に意識や認知といった高位の脳機能に対して促進的に働く可能性を示唆するものと考える。今後は咀嚼・嚥下の制御機構に関する命題では、嚥下に参画する高次脳機能(認知機能)に関しての研究を深めて行かなければならないということである。

 

鎌ケ谷総合病院千葉神経難病医療センター 難病脳内科

湯浅龍彦