日本神経筋疾患摂食・嚥下・栄養研究会

プラセボ効果のメカニズム(2013/12)

嚥下障害の治療・リハビリテーションは、プラセボ効果の影響が大きいと感じることが。プラセボ(Placebo)はラテン語で「私は喜ばせる」を意味する。プラセボ効果とは、偽薬を処方しても何らかの改善がみられる現象のことである。1953年に、Beecherが報告をして広く知られるようになった(Beecher HK et al. J Pharmacol Exp Ther 109 :393-400, 1953)。偽薬としてのプラセボは、偽薬効果を期待して処方される事もあるが、薬剤の治療効果を統計的に明らかにするため、二重盲検法等の比較対照試験(対照実験)で利用される事が多い。薬剤の臨床試験におけるプラセボ薬の役割は非常に重要で、薬を飲んで治療効果があったとしても、それが偽薬効果によるものなのか、本当の薬理作用によるものなのかを区別する必要がある。嚥下障害の治療・リハビリテーションについても同様である。

また、プラセボの特徴により効果が異なること知られており、例えばプラセボ薬の色、ブランド効果、投与方法(経口よりも皮下注射の方が効果がある)の違いにより効果が異なることも報告されている。プラセボ効果に関与する因子としては、信頼の度合い、期待感、過去の記憶、暗示・明示を含む手法の意味、等が関与することが報告されているが、このうち最も大きい要素が期待感(expectation)であると報告されている。プラセボによるペインコントロールの研究では、期待感による痛覚コントロールとして、μオピオイド受容体及び脳機能画像にて前帯状皮質、側坐核、中心灰白質の関与、が報告されている(Scott DJ et al.Arch Gen Psychiatry 65: 230-231, 2008)。また、中脳辺縁系、眼窩前頭皮質のD2/D3のドパミン受容体も関与することも報告されている(Zubieta JK et al. Ann NY Acad Sci1156: 198-210, 2009)。このようにプラセボ効果には、情動系や報酬系に深く関与していることが解明されつつある。一方で近年、期待感と感情との関連(Lin H et al.Neuroscience Letters 522: 123?127, 2012), 期待感の意思決定への影響(Long Y etal. Neuroscience 200: 50?55, 2012)、が脳機能マッピング上も報告されている。

これらの知見を総合すると、プラセボ効果は期待感、報酬、不安、意思決定などとの密接な関連があると考えられ、まさに摂食・嚥下障害の臨床にたずさわる場合に注意すべき点であると思われる。

京都府立医科大学大学院 医学研究科
山脇正永