日本神経筋疾患摂食・嚥下・栄養研究会

ボタン訓練法(ボタンプル法)は奏効するでしょうか?(2018/11)

口唇閉鎖機能の低下により流涎や口裂から食事がこぼれる場合,口唇機能の訓練の一つとして,衣服に用いるボタンを用いたボタン訓練法(ボタンプル法とも言われています)が一部の成書だけでなく著名な学会の「訓練法のまとめ」にも紹介されています.この訓練法は,糸を通したボタンを口腔前庭に挿入し,口唇を閉鎖して,糸を引っ張り,口裂からボタンが出ないように努力して閉鎖を維持するというものです.最初は直径の大きなボタンから開始し,徐々に閉鎖機能が向上したらボタンの径を小さくすることで口唇閉鎖する力を高めることができるとされています.
私たちも,かつて同様の訓練を行っていたことがありました.歯列,口腔前庭も含めて口腔の型を採り,その型から起こした模型上で個人ごとの歯列と口腔前庭の形に適合したプレートを作成して用いていました.何人かの患者さんに適用したのですが,得られた効果に一貫性が見られませんでした.
今から考えると当然ですが,もしも機能障害に対する訓練法のプログラムを構築するのであれば,1)どの程度の障害かの生理学的評価が必要であり,2)その評価結果から最も効果的な負荷の大きさと訓練時間を決定し,3)どれほどの期間にどのようなレベルになれば次の段階に進むのか,あるいは訓練を休止するのかについての,短期的・長期的目標の設定が必要と思われます.ボタン訓練法の実施方法についての記述はあるのですが,いずれにもその効果発現の生理学的背景については言及されておらず,またボタン訓練法が有効であったとする症例報告も渉猟する範囲では見つけることができませんでした.
当方でのボタン訓練法を行った過去のレコードを通覧したところ,比較的奏効していたのは,三叉神経機能の障害で口唇閉鎖感覚が低下していた場合であり,顔面神経機能に問題があって口唇閉鎖運動自体が難しい患者さんでは効果が低いという結果でした.このような結果になった理由としては,以下のようなことが考えられます.
下図の左は,上下総義歯を入れている方の正面と側面の顔貌で,右はその義歯を外した時の顔貌です.義歯を外した状態で口唇閉鎖すると,口唇は口腔内に引き込まれた状態になることがわかります.すなわち,前歯がある状態であれば,口唇を閉鎖すると,前歯は口唇が口腔内に引き込まれる上での抵抗となり,口唇閉鎖のための筋群は鍛えられるということになります.したがって,前歯があれば口唇閉鎖するだけで,意識することなく,自動的に閉鎖筋群は訓練され,閉鎖機能は維持されると考えられます.
ボタン訓練法では,ボタンの直径を小さくすることで訓練効果があるかのように記されていますが,このような口唇閉鎖運動の特性からすると,直径ではなくプレートの厚みを高めることが必要と思われます.口唇閉鎖訓練のためには市販のボタンではなく,個人ごとに作成したプレートの厚みを高めて運動抵抗とすることが必要と考えられます(具体的な方法については紙数の関係で他書にゆずります).
経験則や民間療法に近い訓練法も生理学的に検証されて,改めてその効果が再確認されるものもあるでしょうが,仮にそうであったとしても,適応症,効果発現の生理学的背景が示されていない場合には注意が臨床現場で用いるには注意が必要だと思います.かつてボタン訓練法をお願いした私たちの患者さんには申し訳ないことをしたと思うのですが,奏効しなかった患者さんのほとんどが,ご自身で判断されて「先生,家でいろいろあって,できていません」と継続されていませんでした.反省.口唇閉鎖機能の低下により流涎や口裂から食事がこぼれる場合,口唇機能の訓練の一つとして,衣服に用いるボタンを用いたボタン訓練法(ボタンプル法とも言われています)が一部の成書だけでなく著名な学会の「訓練法のまとめ」にも紹介されています.この訓練法は,糸を通したボタンを口腔前庭に挿入し,口唇を閉鎖して,糸を引っ張り,口裂からボタンが出ないように努力して閉鎖を維持するというものです.最初は直径の大きなボタンから開始し,徐々に閉鎖機能が向上したらボタンの径を小さくすることで口唇閉鎖する力を高めることができるとされています.
私たちも,かつて同様の訓練を行っていたことがありました.歯列,口腔前庭も含めて口腔の型を採り,その型から起こした模型上で個人ごとの歯列と口腔前庭の形に適合したプレートを作成して用いていました.何人かの患者さんに適用したのですが,得られた効果に一貫性が見られませんでした.
今から考えると当然ですが,もしも機能障害に対する訓練法のプログラムを構築するのであれば,1)どの程度の障害かの生理学的評価が必要であり,2)その評価結果から最も効果的な負荷の大きさと訓練時間を決定し,3)どれほどの期間にどのようなレベルになれば次の段階に進むのか,あるいは訓練を休止するのかについての,短期的・長期的目標の設定が必要と思われます.ボタン訓練法の実施方法についての記述はあるのですが,いずれにもその効果発現の生理学的背景については言及されておらず,またボタン訓練法が有効であったとする症例報告も渉猟する範囲では見つけることができませんでした.
当方でのボタン訓練法を行った過去のレコードを通覧したところ,比較的奏効していたのは,三叉神経機能の障害で口唇閉鎖感覚が低下していた場合であり,顔面神経機能に問題があって口唇閉鎖運動自体が難しい患者さんでは効果が低いという結果でした.このような結果になった理由としては,以下のようなことが考えられます.
下図の左は,上下総義歯を入れている方の正面と側面の顔貌で,右はその義歯を外した時の顔貌です.義歯を外した状態で口唇閉鎖すると,口唇は口腔内に引き込まれた状態になることがわかります.すなわち,前歯がある状態であれば,口唇を閉鎖すると,前歯は口唇が口腔内に引き込まれる上での抵抗となり,口唇閉鎖のための筋群は鍛えられるということになります.したがって,前歯があれば口唇閉鎖するだけで,意識することなく,自動的に閉鎖筋群は訓練され,閉鎖機能は維持されると考えられます.
ボタン訓練法では,ボタンの直径を小さくすることで訓練効果があるかのように記されていますが,このような口唇閉鎖運動の特性からすると,直径ではなくプレートの厚みを高めることが必要と思われます.口唇閉鎖訓練のためには市販のボタンではなく,個人ごとに作成したプレートの厚みを高めて運動抵抗とすることが必要と考えられます(具体的な方法については紙数の関係で他書にゆずります).
経験則や民間療法に近い訓練法も生理学的に検証されて,改めてその効果が再確認されるものもあるでしょうが,仮にそうであったとしても,適応症,効果発現の生理学的背景が示されていない場合には注意が臨床現場で用いるには注意が必要だと思います.かつてボタン訓練法をお願いした私たちの患者さんには申し訳ないことをしたと思うのですが,奏効しなかった患者さんのほとんどが,ご自身で判断されて「先生,家でいろいろあって,できていません」と継続されていませんでした.反省.

201811

文献

・舘村 卓,佐々生康宏,他:ボタン訓練法における訓練具の大きさが引っ張り力と口輪筋活動へおよぼす影響.日摂食嚥下リハ会誌,6(1):49-55,2002
・佐々生康宏,舘村 卓,他:前歯口腔前庭に装着するプレートの厚径が口唇閉鎖時の口輪筋活動におよぼす影響.日摂食嚥下リハ会誌,10(2):135-141,2006.
・舘村 卓:摂食嚥下障害への対応.摂食嚥下障害のキュアとケア第2版(舘村 卓),医歯薬出版,2017,145.

一般社団法人 TOUCH / TOUCH口腔機能回復センター 舘村 卓