日本神経筋疾患摂食・嚥下・栄養研究会

味覚と嚥下(2010/03)

 味覚には昔から五味といって、酸味、苦味、甘味、辛味、塩味がある。それらは味蕾によって感知される。味蕾は化学受容体で約50の細胞よりなる。舌、口蓋、口唇、頬など口腔内に存在するのみならず咽頭、喉頭、口蓋垂、上部食道に分布し、五味の感覚が一連の嚥下運動に大きな影響を及ぼす。
 嚥下反射は、三叉神経、舌咽神経、迷走神経を介する脳幹を中枢とする一連の反射的な不随意運動である。摂食~嚥下という一連の運動の中では、食塊を咽頭に送り込む瞬間までは上位のコントロールを強く受ける。このプロセスの間、味覚から生じる酸味、苦味、甘味、辛味、塩味は食の楽しみを与えるのみならず、行き過ぎた刺激は危険を知らせ、危害を避ける防御反応を惹起するため嚥下行為に大きな影響を与えうる。
 味覚の異常は食塊をのみ込むのに不快を誘発する。強い不快は食塊をのみ込めなくする。そういった時に無理に食べなければならないと考える患者では無理にでものみ込もうとするであろう。そうした無理を続けると嘔吐さえも引き起こすことになる。
 味覚障害は、口腔乾燥、歯周疾患、口腔衛生不良、感染症、化学的な刺激など局所的な要因で生じるが、全身的疾患(神経疾患、栄養障害、内分泌疾患、ウイルス感染)や薬物でも生じる。薬物ではフロセミド、ACE阻害剤、レボドパ、テトラサイクリン、フルオロウラシル、チアマゾール、ビグアナイド系薬剤、インターフェロンなどが味覚障害の原因となる。亜鉛欠乏症では、味覚が脱失することがある。
 隠れた味覚異常があっても、そうした自分の状態をうまく表現できない患者は以外と多いので注意しなければならない。そういった患者では食がすすまない、食べたがらないことの原因の一つになっている可能性があるので、味覚障害も気にとめておく必要がある。

 

David H.Zald, et al.
Aversive gustatory stimuration activates limbic circuits in humans.
Brain(1998),121,1143-1154

 

鳥取医療センター 神経内科

金藤大三