日本神経筋疾患摂食・嚥下・栄養研究会

嚥下崩壊とサルコペニア(2015/09)

誤嚥性肺炎後に嚥下機能が悪化しさらに誤嚥性肺炎を次々と繰り返し、いくら口腔ケア、嚥下訓練をしても短期間に摂食不能になる症例を経験する。嚥下障害ポケットマニュアル第3版にも常食を食べていた高齢者が重症の誤嚥性肺炎を併発し数日絶食となった後、脳梗塞を併発したわけでもないのに、重度の嚥下障害になる症例に出会うことがあるとの記載がある。このように脳卒中発作が起きた訳でもないのに比較的短期間に嚥下機能が崩壊していくことを嚥下崩壊と仮に呼ぶことにする。
この嚥下崩壊は何故起きるのだろう。
肺炎などで重症感染症になると炎症性サイトカインが大量に産生されグルコースがピルビン酸からアセチルCoAになりTCAサイクルに取り込まれATPを産生するのを抑制する。骨格筋蛋白をグルタミン、アラニン、フェニルアラニン、トリプトファンなどアミノ酸に分解しエネルギー源にする。グルタミン、アラニンは肝臓に取り込まれグルコースになり高血糖をさらに悪化し炎症惹起性サイトカインを産生し悪循環となる。
一般にICUに入室するような重症患者では筋肉が消耗していくことが知られている。外傷、敗血症では3週間までに平均16%の体蛋白が失われ、特に骨格筋は1日2%ずつ失われる。
嚥下筋のサルコペニア(筋減弱症)はまだわからないことも多いが、加齢によるサルコペニアが潜行していた患者が肺炎をきっかけに嚥下筋に侵襲によるサルコペニア(ミオペニア)を併発し嚥下筋が減少し重度の訓練抵抗性の嚥下障害が急激に現れた。さらに絶食や嚥下障害により経口摂取が十分できず飢餓によるサルコペニアも加わり悪循環を来したと考えると納得がいく。
sarcopenic dysphagiaの言葉もあるがサルコペニアの定義は流動的(定義によっては侵襲によるものはサルコペニアに入らない2))。単に悪循環でなくまずこの深刻なプロセスに名前をつけたら、より病態を患者に説明しやすく、治療もやりやすいと思うがいかがでしょうか。

 

 

①若林秀隆、藤本篤士ら サルコペニアの摂食・嚥下障害    医歯薬出版

② Fielding RA et al : Sarcopenia : an undiagnosed condition in older adults. Current consensus definition : prevalence, etiology, and consequences.International working group on sarcopenia. J Am Med Dir Assoc 12:249-256,2011

鳥取医療センター 金藤大三