日本神経筋疾患摂食・嚥下・栄養研究会

多系統萎縮症の嚥下障害(2019/11)

多系統萎縮症(MSA)は、錐体外路、小脳、自律神経の障害が緩徐に進行する神経変性疾患で、パーキンソン症状が先行するMSA-Pの病型と小脳失調が先行するMSA-Cの病型があります。両者ともに排尿・排便障害や血圧の変動などの自律神経症状は必発ですが、病型や病期によってパーキンソン症状を認めて小脳症状を認めない症例、小脳症状を認めてパーキンソン症状を認めない症例、両方の症状を認める症例と様々です。
少し古いデータにはなりますが、我々がMSAの嚥下障害の特徴を明らかにする目的で、嚥下障害の自覚症状のある15名(MSA-P 9名、MSA-C 6名)を対象におこなった研究をご紹介します。
まず全例に嚥下造影(VF)をおこないMSAの特徴を捉え、 MSA-PとMSA-Cの相違についても検討しました。対象者の4名(MSA-P 2名、MSA-C 2名)に嚥下圧をおこない、軟口蓋・咽頭・食道入口部の圧と、圧の伝搬性および食道入口部弛緩のタイミングについて検討しました。また、5名(MSA-P 3名、MSA-C 2名)に経時的VFをおこなうことにより疾患の進行に伴う変化についても検討しました。
MSAのVFでは、口腔残留、嚥下反射遅延、喉頭侵入、咽頭残留を高率に認めました。MSA-PとMSA-Cの比較では、MSA-Cの方が嚥下障害を高率に認め、その傾向は咽頭期に著明で、鼻咽腔閉鎖不全および咽頭残留については統計学的有意差を示しました。また、病型や重症度に関わらず、小脳症状を認めない症例は咽頭期の障害が非常に軽度で、パーキンソン症状を認めない症例は口腔期障害が非常に軽度でした。嚥下圧では、圧の伝搬性、食道入口部弛緩のタイミングには異常を認めませんでしたが、食道入口部の圧異常や頸部食道の嚥下圧消失は全例で認められ,自律神経の障害によることが示唆されました。経時変化の検討では、MSA-Pは初期には口腔期障害が主で小脳症状の出現・進行に伴い咽頭期の障害が加わり、MSA-Cは初期には咽頭期の障害が主でパーキンソン症状が出現・進行するに伴い口腔期も障害されました。
MSAの嚥下障害は病型により決まるのではなく、錐体外路・小脳・自律神経の各系の障害の広がりと程度により決まることが示唆されましたが、症例を増やして検討を継続しておりますので、また次の機会にご報告させていただきたいと思います。

臨床神経,54S2172014

国立病院機構高松医療センター 神経内科  市原典子