日本神経筋疾患摂食・嚥下・栄養研究会

局所麻酔下の誤嚥防止手術 (2015/02)

局所麻酔下で誤嚥防止手術は可能か?必要か?十分に可能であり、非常に有用であるがいくつかのハードルを越える必要がある。
局所麻酔による誤嚥防止手術を考慮するのは、1)呼吸機能低下等により、全麻の適応が厳しい場合、2)人工呼吸器から離脱できない可能性がある場合である。たとえばALSで人工呼吸はしないと決めている、あるいは迷っている場合に局所麻酔下手術が要求される。
ただし、全麻の適応に迷うほどの呼吸機能低下がすでにある場合や重症肺炎発症中は局所麻酔も当然、相応のリスクがある。ICU管理を前提として、麻酔科と十分に相談できると安全性が高まる。
局所麻酔で行うとき、以下の3点の工夫をしている。
1)環境整備:手術中、じっとしていてもつらくない体位・環境を整備する。局所麻酔手術時の苦痛は創部痛のみではない。腰痛も背中の痒みも暑さ寒さも苦痛である。
2)意思疎通:患者の恐怖感、不安感の軽減に努める。患者自身の納得・理解が前提である。良かれと思っても理解がなければ拷問である。手術中の痛みのサインにはブザーを準備することが多いが、時にそれが困難な患者さんが相手である。瞬きでの意思疎通が唯一の方法であるとしたら、手術中、看護師や言語聴覚士が、執刀医と患者の意思疎通のなかだちをすることも有用である。
3)術式選択:局所麻酔薬には投与量の制限がある。つまり手術の範囲と時間に限界があり、術式選択は重要である。術者の習熟、助手や直接介助看護師との意思統一が手術時間を短縮する。当然、手順が単純なほうが有利で、喉頭気管分離術1)(Lindemann, 1976)は現在も十分通用する。気管切開プラスアルファの短時間で施行可能である。一方、術式のバリエーションは欠点克服の努力の結果である。気管孔狭小化の予防2)、嚥下しやすさ、縫合不全などの合併症リスクの軽減などを目指して術式が開発されてきた。環境整備と意思疎通の努力により許容される手術時間は延長でき、同じ時間でも患者の苦痛は軽減できる。
ハードルを超えれば、胃瘻と引き換えに断念させられた味わう喜びを回復できる可能性がある。慢性誤嚥の不眠と恐怖から患者本人も家族も開放される。現在、局所麻酔での誤嚥防止手術施行可能施設は限定されているが、実は技術的には可能な施設は多い。意思決定や術後の対応も含めて神経内科医と耳鼻咽喉科医とが緊密な連携がとれば、施行可能施設は増加する。
参考文献
1. Lindeman RC., Yarington CT., Sutton D. Clinical experience with the tracheoesophageal anastomosis for interactable aspiration. Ann Otol. 85.609-612, 1976
2. 鹿野真人、桑畑直史、高取隆ら。長期臥床例に対する輪状軟骨鉗除を併用する声門閉鎖術.喉頭. 2008.184-190

名古屋大学医学部附属病院耳鼻いんこう科

藤本保志