日本神経筋疾患摂食・嚥下・栄養研究会

摂食・嚥下障害のリスクマネージメント その2(2011/08)

 Most importantly, we must systematically designsafety into processes ofcare. ~最も重要な点は診療・ケアのプロセス中に安全というシステムを組み込むことである~ (WCRichardson. To Err isHuman序文より)

 ?医療安全の理念はこの言葉が端的に表しているといえましょう。誤嚥及び嚥下障害について、そのリスク回避システムを日常診療に組込むことは、摂食・嚥下障害を治療・ケアする我々にとっては重要な課題です。現在の医療システムは複雑化しており、患者安全に対するリスクは高くなっています。このようなリスクの克服が困難である理由として、特に多職種の関与する場面では各医療職の問題点へのアプローチ方法、検知システム、解決方法が職種によっても、個々人によっても異なっていることがあげられます。嚥下障害の治療・リハビリテーション・ケアもその例外ではなく、多くの職種が関わるなかで誤嚥、誤嚥性肺炎へのリスク管理システムを作成するのは容易ではありません。

 最近、Hazardand Operability Study(HAZOP)法という、本来化学プラントなどで用いられてきた管理工学的手法を、誤嚥・嚥下障害のリスク管理に応用しようという取り組みがなされています。誤嚥のリスクを回避するためには、嚥下運動の際に空気と食物の通路を正確に交通整理する必要があります。嚥下障害はこの精緻な制御メカニズムの破綻によって惹起されます。従来HAZOP分析は化学プラントのリスク評価に使用されている手法でしたが、嚥下運動についても化学プラント図として表現することが可能です。HAZOP分析は嚥下運動の種々のプロセスについて、あらゆる可能性を網羅的に場合分けし(GuideWordとDeviation)、各々について対策(Layers ofProtection)を立てようというものです。HAZOP法の応用としては、医療安全と医療HAZOP、ヒューマンファクター、嚥下リハビリテーション、嚥下障害看護とクリティカルパス、嚥下障害の在宅医療、嚥下運動の基礎研究、などへ応用されることが期待されます。

 最後に、実際の日常臨床におけるリスクマネージメント手法は実現可能であることが重要で、James Reasonも次のように述べています。It is a way of confronting the problems of conducing a hazardous operation so that you keep your risks as low as reasonably practicable and still stay inbusiness.

~それは、リスクを(実務的にも経済的にも)現実的な程度まで低減するための、問題への対処方法である~ (James Reason著The Human Contributionより)。

 

京都府立医科大学

山脇正永