日本神経筋疾患摂食・嚥下・栄養研究会

摂食嚥下栄養診療における多職種連携の重要性(2019/09)

今、医療介護の現場では高齢化の影響により、様々な理由で口から食べられなくなる患者さんが急増していることは周知の事実です。嚥下障害による誤嚥性肺炎で不幸な経過となってしまわれる方、また、なんとか食べられてはいるものの摂取量が不十分で、栄養状態がどんどん悪化していき、病気そのものが治るチャンスが奪われている患者さんに多く遭遇するようになってきました。特に神経筋疾患は嚥下障害を合併することが多く、予後に直結するも重要な介入ポイントとなっています。
当院ではこうした問題を解決するために、小山珠美氏が開発したアセスメントツール、KTバランスチャート(KTBC®)を導入し、FIMで示されるADLの改善度を検証することが出来ましたので、ここに紹介します。
KTBC®の口から食べるために欠かすことができない13の評価項目から形成され(各項目5~1点、総点数65点)、各項目は平易な言葉で記載されていて特殊な検査や機械も不要のため、誰もがいつでもスコアリングが可能、さらに結果がレーダーチャートとして分かりやすく視覚化される事で、個々の症例における強みと弱みを明確化出来る事が特徴です (図1)。すぐに診療で利用できるテンプレートが、下記から入手できますので、ご覧下さい。http://www。igaku-shoin。co。jp/bookDetail。do?book=93200201909-1
今回は、このKTBC®を回復期リハビリテーション病棟に導入した事によりFIMがどう変化したかを、レトロスペクティヴに比較検証しました。その結果、それぞれの患者群の背景はほぼ同等でしたが、KTBC®導入後(n=124)は、導入前(n=109)と比較して、FIM利得(入院時から退院時までにどれだけFIMが上昇したか)、FIM効率(FIM利得を入院日数で除したもの)、実績指数(FIM効率×入院上限日数)は、いずれも導入後に統計学的に有意に高い数値となっていました(それぞれの平均値:FIM利得12.2 vs18.3、FIM効率0.16 vs 0.29、実績指数 18.5 vs 34.6) (図2)。年齢、性別、原疾患などの交絡因子で調整した多変量解析においても、KTBC®導入はFIM利得を上昇させた有意な因子であった事も分かりました。

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また入院期間中の平均摂取カロリー・タンパク質量(1日あたり、実際にどれだけ食べれていれたか)の解析では、KTBC®導入後にはカロリー、タンパク質ともに有意に摂取量が増加していて、しっかりと口から食べられる患者さんが増えていた事も分かりました(それぞれの平均値:カロリー 23.1 vs 26.1 kcal/kg/日、タンパク質:0.89 vs 1.09 g/kg/日) (図3)。さらに多変量解析による在院日数の時間分析では、KTBC®の導入したことにより入院期間が有意に短縮していた事も分かりました(図4)。

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本研究の限界点としては、まず単一施設での後ろ向き研究であり、バイアス効果の関与を除去することはできず、KTBC®のADLに与える真のポジティブ効果については、よくデザインされた他施設での前向き研究での結果を待たなければいけません。また本研究は神経筋疾患に限定したものではなく、その検証も望まれます。

以上の様な限界点はありますが、神経筋疾患において摂食嚥下栄養障害を患われている患者さんは、多面的な問題を合併していることが多く、多職種による効果的かつ効率的な関わりが求められます。KTBC®は摂食嚥下栄養支援を行うには絶好のアセスメントツールと考え、ここに紹介させて頂きました。データの詳細は下記をご参照頂ければ幸いです。
参考文献:
Waza M et al, J Am Med Dir Assoc.20(4):426-431, 2019
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1525861018306029
医療法人誠道会
各務原リハビリテーション病院
和座雅浩