日本神経筋疾患摂食・嚥下・栄養研究会

新春メッセージ

湯浅先生写真

新春メッセージ

「新たな時代の幕開け、刷新されたホームページを祝う」

代表世話人湯浅龍彦 鎌ケ谷総合病院千葉神経難病医療センター・センター長

 

平成27年の年頭に当たり、日本神経筋疾患摂食・嚥下・栄養研究会(JSDNNM)の会員の皆様、そして本ホームページ(HP)をご覧頂いている皆々様に、新春のご挨拶を申し述べますとともに、発足11年目を迎えることになります本研究会の今後の発展を祈念しまして一言ご挨拶させて頂きます。

 

最初に、本研究会の発足の契機を簡単に振り返ってみます。本研究会は、平成12年4月から始まった厚生労働省精神・神経疾患研究委託費「神経疾患の予防・診断・治療に関する研究」(湯浅班)の班員並びに班員関連施設の中で、摂食・嚥下の機能とその障害に興味を懐く方々を中心に「摂食・嚥下障害勉強会」がスタートした所に端を発します。その後研究班は平成15年度からは「政策医療ネットワークを基盤にした神経変性疾患の総合的研究」と名称が変わりましたが、勉強会は筋ジストロフィー研究班(川井班)の支援を得てHPを作成、今日まで継続しました。湯浅班の最終年度(平成17年)の夏季ワークショップが長崎で開催されましたが、その会議に合わせて、鹿児島大学名誉教授井形昭弘先生(現名古屋学芸大学長)を顧問に迎え日本神経筋摂食・嚥下・嚥下研究会(JSDNNM)第1回大会(長崎大会)が正式にスタートしました(大会長は、福永秀敏南九州病院院長:現鹿児島共済会?南風病院南風病院院長)。

当初はナショナルセンター並びに国立病院機構所属の先生方で運営されていましたが、その後国立病院機構以外からも広く会員を募集することとなり、大学病院はじめ多くの医療機関からの参加者を募りました。当初共催企業のご協力を仰いでいた運営方法を改め、平成25年第9回大会(京都大会:巨島文子大会長、京都第一赤十字病院リハビリテーション科部長)からは会員による自主運営にすることが決まり、昨年の第10回大会(むさしの大会:山本敏之 国立精神神経医療研究センター病院医長)を経て、本年は自主運営3年目となる運びとなったのであります。この間会員数も徐々に増加し、会員の出身母体も広がりまして、現在では医師(神経内科、内科、耳鼻咽喉科)、歯科医師、鍼灸師、看護師、歯科衛生士、リハビリテーション療法士、栄養士などの多職種の方々の参加を頂いております。

 

本研究会が取り扱うテーマは、出発が神経難病でしたので神経難病に関連する摂食・嚥下の問題に比重が置かれて来たのは当然としても、今ではわが国の一般人口の高齢化に伴う様々な医療情勢もあって、認知症における摂食・嚥下障害や栄養の問題への関心も高まってきています。今後こうした傾向は益々加速されるでありましょうし、神経筋疾患を柱とする核心は変わらなくとも、広く老年期の神経疾患へと対象が広がってゆくものと予測されます。加えて我が国の医療体制の見通しからいえば、今後は在宅医療における医療の質の向上が求められる時代となって、そうした医療現場から、摂食・栄養・嚥下の基礎知識、或いは具体的な問題解決策が求められることとなりましょう。在宅医療を担う先生方との交流の場を拡大して行かねばなりません。同時に、関連する学会との相互交流も盛んにする必要があります。特にリハビリテーション分野との交流は急務です。

 

一方、言うまでもなく摂食・嚥下とは即ち脳機能そのものであります。脳科学の一翼を担う本研究会では、摂食・嚥下に関わる中枢機能の研究と新たな治療法開発に向けた研究体制の整備を急がなければなりません。摂食・嚥下の中枢機構が脳の機能画像法の進歩によって今一層の高感度を持って解明されることとなれば、画像やコンピュータサイエンスによる介入方法の進歩と相まって、治療法の進歩が望まれます。例えば脳に電極を埋め込み、或いは磁気刺激などを応用して、脳の機能回復を促す技術の進歩の見通しが出でくると思われるのです。今後急速に進歩する脳科学や脳工学との関連は益々深まると予測されますので万端怠りなきよう準備が肝要です。

 

次に栄養に関していえば、認知症の予防に関わる食事や栄養の問題は危険因子の除去といった観点からも大変重要な分野であり本研究会で取り扱うべき大きなテーマとなるわけです。更に栄養経路に関して現在は胃瘻全盛時代の感がありますが、今後はこれに代わる新たな技術開発といった観点も必要かと思います。そうした時に耳鼻咽喉科関係の先生方の入会が多くなって来ておりますことは、新たなチャレンジの時代の幕開けを意味するものと見做せましょう。嚥下と呼吸と発声を同時に満足する技術の開発は大きなフロンテイアです。近未来にはiPS細胞の応用による機能再建は勿論大きなテーマとなりましょうが、加えて嚥下機能を中枢からコントロールする脳外科的な介入法の開発が脳の機能研究と相俟って治療法として登場するこことも視野に入れるべきです。

 

食べるという行為は正しく脳機能そのものです。食は人の尊厳にも関わる行為でもあり、こころの中心課題であります。このように本学会が目指す目標は高く、フィールドは広大であります。新たな時代を目前にして、国民の負託に答えるべく本研究会の実力を高めて行かねばなりません。本研究会の役割は今後益々大きく広くなるでありましょう。そうした矢先に今回こうして新たなHPが出来上がりましたことは真にご同慶の至りであります。これも一歩一歩皆で積み重ねてきた努力があって自主独立の門構えが漸く出来上がったものであります。今後はこうした情報発信基地を足場にして、国民に良質の情報を届けるべく、会員一同皆でこころを合わせて、前進したいと願うものであります。

 

(平成27年元旦)