日本神経筋疾患摂食・嚥下・栄養研究会

東日本大震災レポート(4) 震災より約2ヶ月が経過し

大槌町出身で、震災直後より現地で支援活動をされていた、仙台医健専門学校教員の元持先生が、質問に答える形で現地の情報をお寄せくださいました。(野﨑園子)
 
震災より訳2ヶ月が経過し、多くの地域避難所のライフラインが復旧しつつあります。
緊急避難状況から、次のフェーズとして「生活の構築」へと移り変わってきています。
食事の内容や食事に対しての思いは、時間の経過ともに大きく変化をしていると感じました。
 
1. 嚥下障害の方のお食事は対応できているか?
 
ご飯が食べられない方に、せめておかゆを食べていただける環境作りができているか?
 
A:震災直後は、すぐに食事が取れ運搬しやすい、おにぎりやパン・ビスケット系が多く提供されていました。その後、徐々に汁系の温かなものが提供されるようになりました。震災後は、真っ暗の中、雪が降り寒さにみが震えていました。
 
ライフラインが途切れると、暖をとることや調理はもちろんのこと、様々な生活状況が困難になります。調理をするには水は必要ですし、暖かな汁物やおかゆ提供には、その盛り付ける食器も必要となってきます。特に高齢者の多い避難所では、やはりパンよりは、ご飯や汁物がほしいという声は多く聞かれていました。
 
調理器具や食器が無い避難所は多く見受けられ、使い捨てのプラスチックの容器やスプーンを大切に使っていました。避難所ではパイプ椅子や、床のシートに座っての食事です。テーブルなどもありません。汁物の入ったプラスチックの食器や紙コップはやわらかく、うまく取り扱うこと出来ない場面や、椅子とテーブルでの食事の姿勢が取れないために、介助しての食事となっている片麻痺の方やお子さんなどが見受けられました。
 
災害における食事環境をつくるには、多くの要因が絡み合っていることを実感しました。
 
 
2.水分にとろみをつけることができているか?おつゆなどにも必要ですが、そのような対応は可能か?(ペットボトルにスティックのトロミ剤を決まった分量入れれば完成ですが、そのようなノウハウが現場で伝わっているか?)
 
A:避難所に「とろみ」をつけられるものを持ち、避難した人はどれだけいるのでしょうか?必死に逃げた状況の中、薬やめがね、入れ歯すら持っていない人達も多くみられました。
 
避難所へ避難している片麻痺のAさんは、震災前はとろみをつけて食事をしていました。現在、とろみは手元に無く、家族が配給された食事をペースト状にアレンジしています。プラスチックの器を再利用し、おにぎりにお湯や汁物を加えておじや風にするなど、出来る範囲での工夫を日々行っていました。私が訪問した避難所では、徐々に真空パックのおかゆや離乳食も届き始めましたが、とろみの配給は見受けられませんでした。今後、生活の落ち着きに合わせて、汁物やおかずの数が増えるなど、食事内容も変化しています。それにあわせて、とろみなど要求が今より出てくるのではないでしょうか。
 
また、Aさんの水分摂取は震災前に比べ少ない状況です。しかし、家族からはトイレの回数が増えることを懸念する声も聞かれ、その背景には避難所のトイレ使用への不便さと介助の負担が増えることがありました。
 
さらに、胃ろう使用している方からは、水の供給が不十分であるとケースを洗ったり、水分摂取量調整に支障がでるなど食後への配慮も気にかけることに気づかされました。
 
 
3.薬の飲み方に工夫が必要な方の対応ができているか?錠剤がのめない方に粉末または簡易懸濁法のケアができているか?
 
A:震災当時、薬を持参して非難する人はまれでした。また、災害より遠方の居住者は、医療機関へ行くアクセスや医療機関自体がなくなっている状況におかれ、薬の処方期限は切れていることが現状としてありました。それに対応すべく、緊急医療チームが巡回訪問や地域に仮設診療所を設置し、薬の処方となりました。
 
避難所では、震災による水供給の不備とコップが無いため内服が困難になっていることも見られました。ベットボトルに口をつけて薬を服用することは、高齢者にとっては難しい動作となっていました。
 
医療チームが持ちよる薬は、作用は一緒でも形状や色が異なり多少の混乱が見られたこともありました。お薬手帳の利用や処方時の服用説明を丁寧に行っていました。震災より一ヶ月経過したあたりでは、薬剤師による個別の服薬指導も徐々に開始され、個別に薬の対応が可能になってきたことは、健康への安心感が増したことと思います。
 
 
4.口腔ケアはどの程度可能か?
 
A:早い段階において、口腔ケアの必要性は多くの避難所で聞かれました。歯ブラシは早い時点で支援物資として届けられていましたが、その歯磨きをする場所や歯磨きもための水確保は、大きな避難所ほど不足している現状がありました。
 
老健施設等では、口腔ケア用の濡れティッシュを使用しているところも見られています。
 
入れ歯の修理や入れ歯を津波や地震で無くしたことで、食事が満足に取れない方もおり、歯科診療が避難所ベースで行われました。
 

滋慶文化学園 仙台医健専門学校

(理学療法士)元持幸子