日本神経筋疾患摂食・嚥下・栄養研究会

神経筋疾患患者における舌厚みの測定(2021/09)

神経筋疾患患者の嚥下障害には、舌機能が大きな影響を及ぼしますが、その評価には舌圧測定が一つの役割を果たしています。神経筋疾患患者の多くは進行過程で舌圧が低下しますが、筋萎縮性側索硬化症(ALS)のように舌が萎縮する(写真左)疾患がある一方で、デシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)のように舌が肥大する(写真中央)疾患もあります。これら舌の萎縮や肥大を客観的に評価する目的で、超音波エコーを用いて顎下部~舌背部にかけての距離を測定する方法(写真右)があります。筆者らは、ALSとDMDに加え、筋強直性ジストロフィー(DM1)の3疾患の比較と経時的変化の比較を行いました。
3疾患の比較では、DMD群が著明に舌に厚みがあり、巨舌を客観的に示すことができました。その一方で、DMDの舌肥大は舌圧値に相関しないことも示唆されました。脂肪組織の増加によって舌が肥大しているのであれば、舌筋力への影響は限定的なのかもしれません。また、ALS群は舌厚みが低下した患者ほど舌圧が低下しており、舌萎縮が舌筋力低下に影響していることが裏付けられました。
経時的変化の比較では、ALS群は平均2年間で舌厚み、舌圧ともに低下していましたが、DM1群とDMD群は4~5年間でも有意な変化は認められませんでした。興味深いことに、ALSの四肢麻痺群の方が球麻痺群よりも舌圧低下幅が大きく、観察期間の前に球麻痺群は既に舌機能低下が進んでしまっていた可能性があります。ALSは急速に舌萎縮と舌圧低下が進行するのに対し、DM1やDMDの進行は緩徐であり、数年程度の経過観察では変化を掴めないのかもしれません。
以上のように、舌の萎縮や肥大をきたす神経筋疾患患者の病状進行を把握するためには、舌圧測定のみでなく、定期的な超音波エコーを用いた舌厚み測定の有用性が示唆されました。特にALS患者の舌萎縮進行を客観的に示すためには必要な方法の1つと考えます。

Umemoto G, et al. BMC Neurology (2021) 21:302
Umemoto G, et al. Neurology and Clinical Neuroscience (2016) 4:1–4

福岡大学病院摂食嚥下センター 梅本丈二

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