日本神経筋疾患摂食・嚥下・栄養研究会

筋疾患患者へのとろみの必要性について(2009/09)

 嚥下反射の惹起が遅れている患者様では,食物にとろみをつけることで,咽頭での食物の通過がゆっくりになり,誤嚥を予防できることがあります.そのため,嚥下障害に対してさまざまなとろみ調整材(とろみ剤)が使われていますが,「嚥下障害食 = とろみ」というのは誤った認識です.とろみをつけるのが不適切な患者様にとろみをつけてしまうと,嚥下障害を増悪させてしまいます.
 筋疾患の嚥下障害は嚥下運動に関わる筋肉の筋力低下が原因になっていることが多く,とろみをつけて食物の粘性が増すと,咽頭での通過障害をきたします.たとえば,デュシェンヌ型筋ジストロフィーや眼咽頭型筋ジストロフィーに代表される咽頭筋群の収縮力が低下する疾患の患者様は,しばしばとろみをつけるよりも流動性の高い液体のほうが「飲み込みやすい」と訴えます.また,筋強直性ジストロフィーのように咽頭収縮力の低下と輪状咽頭筋の開大不全がある疾患では,とろみをつけることで上部食道での通過障害が増悪し,梨状窩の残留が増加したり,嚥下運動を繰り返すうちに残留を誤嚥したりします.
 筋疾患患者様の嚥下障害にとろみ剤は万能ではなく,食物の通過を妨げないような食物形態の調整が必要です.筋疾患患者様の食事をよく見て,食べやすさについての患者様の訴えをよく聞いて,適切な食物形態を選びましょう.

 

国立精神・神経センター病院 神経内科

山本敏之