日本神経筋疾患摂食・嚥下・栄養研究会

認知症がある方の嚥下障害への対応(2022/02)

<はじめに>
認知症がある方の嚥下困難の症状は、初期から中期まではアルツハイマー型、レビー小体型、前頭側頭型など、各病型の病態を反映した症状や行動がみられますが、中期以降は認知症状の進行に伴い摂食嚥下の症状も混沌とし、病型別の病態は不明確になることが多いとされています1)。いずれの場合も、誤嚥性肺炎に直結する咽頭期障害の有無を可能な方法で評価し、対応の工夫の優先度とポイントを押さえた対応が生命を守るために大切です。今回は、その症状の評価と考えられる対応策をいくつかご紹介致します。

<嚥下症状の評価・推察>
認知に問題があると、改訂水飲みテストや反復唾液嚥下テストのような一般的なスクリーニングテストの実施は困難です。飲食や唾液の嚥下、日常の声の様子などから口腔、咽頭の機能を推察・評価します。
A.まず、誤嚥性肺炎に直結する咽頭期障害の有無を推察します。
① 食事中、水分を飲む際にむせるかどうか
② 食事中、食後あるいは日中に声がきれいに出ず、痰がからんだようなゼロゼロとした声になることがあるかどうか
③ 夜間就寝中にせき込むことがあるかどうか
この3つのうち、いずれかがあるようでしたら、咽頭期嚥下障害を疑います。さらに、微熱程度の熱を含め発熱することがあるようでしたら、肺炎の傾向を疑いますので受診されることを勧めます。
B.Aの問題は見られないけれども食が進まない、という場合は口腔期と覚醒状態のチェックをします。
① 歯の欠損、義歯の不適合など口の中の環境が整っているか
② 食事の時に覚醒しているか
③ 食物の認識ができるか
口腔環境は、可能であれば歯科治療を進めます。

<問題点への対応>
A.咽頭期の問題への対応
認知の問題の有無に限らず、咽頭期障害は肺炎に至る心配が強くありますので対応が必要です。特に水分のむせは誤嚥に至っている危険性が高いので、むせずに飲めるように下記のような工夫をします。
① 適量のとろみをつける:市販のとろみ調整食品を用いてむせずに飲み込める濃度のとろみをつけます。むせずに飲めるので苦しさが減り、受け入れられることも少なくありません。とろみの受け入れが悪い場合は水分をゼリー状の食品で摂るのも一案です。
② 夜間にせき込むことがある場合:ベッドの上半身を少し(20度程度でも)起こした姿勢にします。ベッドが起こせない場合や布団の場合は、頭部の下に座布団などを入れて少し上げるだけでも軽減する場合があります。合わせて声の様子や食事時のむせに注意をし、対応を検討します。
B.口腔期、覚醒低下への対応2,3)
それぞれの状況に合わせて、下記のような対応を取り入れてみます。
① 口腔環境について歯科受診が難しい、あるいはご本人が義歯装着を希望されない場合:お口に入れる食物の形態の工夫で対応します。歯が残っていて少しでも噛むことができる場合や、歯茎で噛む力がある場合は、はんぺんや柔らかい肉団子、おでん種の練り製品を柔らかく煮た物などを、適度な大きさで提供します。咀嚼が困難な場合はペースト状にします。
② 覚醒状態が悪い場合:摂食は危険です。少しでも覚醒状態が良い時間帯を探して摂食を進めます。

図1 取っ手付きの椀の例

    図1 取っ手付きの椀の例

③ 食物の認識が悪い場合:器やスプーン上の食物をよく見せる、献立を説明する、匂いを嗅ぐよう促す、介助しながら器やスプーンを持たせる、口に入れるところで口唇を刺激するなどして、認識を進めます。図1のような取っ手付きの器を手で持つと認識が進むことがあります。個別性が高いこともありますので、色々試してみると良いと思います。

C.その他の対応
摂食を進める中で悩ましいことに、嚥下しているかどうかわかりにくいことがあります。頸部聴診(図2)ができれば望ましいですが、毎回の嚥下毎には行いにくいです。また、喉頭を直接圧迫して嚥下を妨げるようなことがあってもいけないので、図3のように頸部に介助者の指を触れて嚥下を確認すると良い場合があります。

図2 頸部聴診の例

     図2 頸部聴診の例

図3 指で嚥下を確認

     図3 指で嚥下を確認

<まとめ>
認知に問題がある方々の摂食場面では、様々な難題が起こることが多いですが、咽頭期嚥下の安全性を確保しながら、問題の背景を理解するよう努め、個別の状況に合わせて試行することも大切です。命を支える摂食が少しでも進むよう介助、対応する側の方々の経験を生かし、共有して行けますよう願っています。

1) 小谷泰子.認知症の症状進行と嚥下障害の関係:野原幹司編.認知症患者の摂食嚥下リハビリテーション.南山堂;2001. P31-3.
2) 聖隷嚥下チーム編:認知症への対応:嚥下障害ポケットマニュアル.第3版.医歯薬出版;2011.P150
3) 長谷川賢一:言語聴覚士が行う観察とスクリーニングテスト:摂食嚥下障害学;医学書院;2014.P102-4

埼玉県総合リハビリテーションセンター 言語聴覚科 清水充子