日本神経筋疾患摂食・嚥下・栄養研究会

離床と覚醒と嚥下の関係(2018/07)

パーキンソン病の80%に不眠があり入眠障害,中途覚醒,早朝覚醒がありしばしば日中の過眠,昼夜逆転がある.覚醒度が低下すると摂食動作が止まり,口の中に入れたまま呑み込まなくなり,そればかりか嚥下反射の誘発が悪くなり,咽頭残留から誤嚥のリスクが高まる.
脚橋被蓋核PPNなどの核は姿勢の制御や運動,嚥下に関わると共に上行性覚醒系の一部をなし覚醒,睡眠に大きな働きをしているが、パーキンソン病は過剰なGABA抑制によりこの領域の機能低下が指摘されている. 直接脳深部刺激装置でこの領域(PPN領域)を刺激したら歩行障害だけでなく睡眠,発声,嚥下障害が改善したとの報告もある.
姿勢制御するためには深部感覚刺激のfeed backは必須である.Feedback刺激によりPPN領域が興奮し覚醒、嚥下も改善してくると考えるのも自然である.
だとすれば覚醒度を高くするにはまず離床.抗重力位にして姿勢筋活動刺激を与える.パ-キンソン病の人が臥位から座位にしただけで他の人以上に表情が変化するのは坐位による姿勢刺激がPPN領域に対して脳深部刺激のように働いているかもしれない.もちろん離床だけでなく生活のリズムを作ることも大切である.夜間せん妄も薬剤調整だけでなくこうした環境調整で回復することが多いし,リハビリテーション病棟では,離床と生活のリズムは病棟生活の根幹をなすものである.
「目を覚まさせるには起こせばいい」とはごく普通の結論ではあるがパーキンソン病の患者ではもっとそれ以上に深い意味がある.
201807

(黒質緻密部と視床に投射する脚橋被蓋核ニューロン 文献をもとに著者作成)
軸索が枝分かれして視床と黒質に同時に投射しているPPNニューロンである。PPNは上行性脳幹網様体賦活系を構成している核群である。上行性脳幹網様体賦活系はこうした神経のネットワークにより覚醒系の機能を果たしている。
高草木薫:脚橋被蓋核(PPN)の機能とパーキンソン病.神経内科.80(5):527-535,2014.
国立病院機構鳥取医療センター 神経内科  金藤大三