日本神経筋疾患摂食・嚥下・栄養研究会

非定型抗精神病薬の嚥下障害(2011/10)

 嚥下障害の原因の一つとして抗精神病薬による薬剤性の嚥下障害がある。これまでに、定型抗精神病薬の報告では入院中に投与された22944名中543名が肺炎を発症した報告(J Am GeriatrSoc,56:661-6,2008)や、抗精神病薬の投与群の方が、非投与群に比して嚥下機能が低かったことが報告されている。

 近年、非定型抗精神病薬は、臨床の不穏・譫妄対策の中で重要な位置を占め、一般的には副作用が少なく、ケアの軽減からもその有用性は高く評価されている。精神科のみならず、入院時や術後の不穏や譫妄に対しても頻用されつつある。非定型抗精神病薬の多くはドーパミンD2受容体及びセロトニン5-HT2A受容体の拮抗作用を有しているため、作用時間が短く副作用が比較的少ないとされている。その一つであるリスペリドンは、2~6mgで用いる限りドーパミンD2受容体占有率が80%を超えない用量に設定され、錐体外路症状の出現は少ないといわれている。しかし、日常診療では少量リスペリドンの短期間投与でも、重篤な嚥下障害や誤嚥性肺炎を発症し、中止後も嚥下障害が遷延する症例を経験する。一方、多量投与でも嚥下障害が発症しない患者がある。これまでの報告では症例報告しか検索しえなかった。

 非定型抗精神病薬による嚥下障害発症の背景因子を捉えて、医原性嚥下障害や肺炎を予防することは極めて重要である。また、臨床現場では、短期投与でも嚥下障害が起こりうることに十分留意しなければならない。

 

兵庫医療大学 リハビリテーション学部

野﨑園子