日本神経筋疾患摂食・嚥下・栄養研究会

ALSの体重減少と生命予後,機能予後(2020/05)

2018年と2019年の本学会学術集会にて発表させていただき,その後論文化に至った拙著論文をご紹介したいと思います。いずれも筋萎縮性側索硬化症(ALS)の体重変化と生命予後・機能予後に関する報告です。

一つめは,Journal of Neurologyに出させていただいた論文です1)。ALSにおいて,発症時から診断時までの体重の年間減衰率(pre-diagnostic ∆BMI,kg/m2/year)は生命予後を予測する因子ですが,診断時から1年前後のpost-diagnostic ∆BMIも生命予後を強く予測します。これは予想どおりの結果でしたが,興味深かったのはpre-diagnostic ∆BMIとpost-diagnostic ∆BMIには相関がなく,診断前に体重が減っていた患者であっても,診断後に体重が増える方が一定数おり,そのような患者は体重が減り続ける患者よりも生命予後が良かったことです。このことは診断時に行う栄養指導がその後の生命予後の改善に有効であることを示唆しております。最近ドイツから,急速に進行するALS群においてはプラス400kcal/日の食事療法が生存期間を延長したとの報告が出されました2)。この論文は前向きコホート研究としては初の報告で,いかにエネルギー摂取と体重維持が重要であるかを示しており,ALS治療の新たなエビデンスが増えたと言えましょう。
二つめは,診断時から気管切開・人工呼吸器装着までの体重の年間減衰率(pre-tracheostomy ∆BMI)が,その後の機能予後を予測するという論文です3)。気切までの体重減少のスピードが速い群(>1.7 kg/m2/year)は,そうでない群よりも眼球運動障害・四肢完全麻痺・コミュニケーション障害・尿道カテーテル留置までの期間が有意に短いという結果でした。気切までの進行が速いと,多系統変性を起こしやすく,完全閉じ込め状態(totally locked-in state)になる確率も高くなることがわかっており4),それと合致する結果でした。ALSでは視床下部病変が起こりうることを前回のコラムで書きましたが,このような結果からも,ALSは中枢自律神経系をも障害する多系統変性疾患であることがわかります。
呼吸器装着後の栄養療法についてはまだ確立しておりませんが,気切を希望しない患者も希望する患者も,病初期もしくは気管切開するまでは体重を落とさないように栄養管理していくことがとても重要だと言えます。ただ,初期の栄養療法が呼吸器装着後の機能予後を改善するかどうかは,今後のさらなる研究が待たれます。

【文献】
1) Shimizu T, Nakayama Y, et al. Prognostic significance of body weight variation after diagnosis in ALS: a single-centre prospective study. J Neurol 2019;266:1412-1420.
2) Ludolph AC, Dorst J, et al. Effect of high-caloric nutrition on survival in amyotrophic lateral sclerosis. Ann Neurol 2020;87:206-21.
3) Nakayama Y, Shimizu T, et al. Body weight variation predicts disease progression after invasive ventilation in amyotrophic lateral sclerosis. Sci Rep 2019;9:12262.
4) Nakayama Y, Shimizu T, et al. Predictors of impaired communication in amyotrophic lateral sclerosis patients with tracheostomy invasive ventilation. Amyotroph Lateral Scler Frontotemporal Degener, 2016;17:38-46.

東京都立神経病院 脳神経内科 清水俊夫