日本神経筋疾患摂食・嚥下・栄養研究会

Magendieの嚥下3期モデル,200周年(2017/09)

 François Magendieは動物の喉頭を切開して観察し,嚥下中の声門閉鎖を確認し、喉頭蓋の除去では誤嚥が起こらず、両側反回神経と上喉頭神経を切断してはじめて誤嚥が起こることを実証(1813)し、その後に嚥下を口腔期,咽頭期,食道期の3つの時期にわけるという説を“生理学の基本的概論”Précis élémentaire de physiologie(1816)の中で解説した。それから201年がたった。つい先日,だれも200周年のお祝いしなかったね、とある先輩がつぶやいたのを思いだして調べたら,たしかに1年遅かった。この原著はさすがに読むことができないとおもっていたが、2002年に鈴木により詳細に紹介されていた為、現在でもきちんと振り返る事ができる。200年前のあの時代においてどうして、そこまで解ったのか不思議である。レントゲンによるX線の発見は1895年、MosherによるX線による嚥下動態の報告は1927年であるから、その100年以上昔の事であり、まさに慧眼である。ちなみに日本では大塚らが1937年に“生體「レ」線活動寫眞ニ依ル嚥下運動ノ研究”を著したのが嚥下造影の最初である。この原著は名古屋大学図書館でも発見できた。最近,古い論文もインターネットで検索しやすくなったが、ここまで古いとアナログの図書館の存在がありがたかった。
Magendieから200年、Mosherから90年の今日、X線映画はシネフィルムになり、ビデオになり、デジタルになって随分楽に見られるようになった。編集だって加工だって楽々である。ちなみにVFという略号もすでにVideoではないので現実とずれはじめている。デジタル化の問題としては嚥下造影を電子カルテに取り込むために、知らぬうちにフレームレートが30fpsから24fpsや15fpsへ削られていたり,圧縮されて見にくい画像になっていることが出てきている。サーバーの負担も理解できるが、診療上必要な質の担保のための議論が要求されるだろう。
ところで先日、嚥下障害診療ガイドライン編集委員会にて動画を多くみる機会をいただいた。委員によって嚥下造影の読み方や着眼点がところどころ異なることが面白かった。症例検討などをすると、主治医が時にもつ先入観のない、まっさらな目が時に重要な所見を見つける事がある。絵の解釈と同じで、目に信号として入っていても解釈できていなければ事実が見えてこない。楽しい仕事である。
頭頸部癌治療の世界では頸部郭清術の100周年は誰もが口にし、記念講演会なども開かれた。Crileが1905年に提唱したこの手術は頸部リンパ節群を系統的に、確実に郭清することを標準化したもので、ほんの20年前ころまではこの手術は忠実に再現されていた。小生が頭頸部外科の見習いを始めた最初の10年はこの基本がどんどん変化した時期でもあったのでちょうど振り返る良い機会であった。懐古趣味ではないが、Magendie200周年はもっと話題になってもよい気がした.
参考文献:鈴木 康司, 柳下 三郎. 嚥下研究におけるFrançois Magendieの功績,日気食会報53 (2002) 313-318
名古屋大学大学院耳鼻咽喉科 藤本保志