日本神経筋疾患摂食・嚥下・栄養研究会

パーキンソン病のケアは腸から:急性持続性無動acute persistent akinesiaの病態(2015/04)

パーキンソン病の治療はいうまでもなく抗パ剤が中心である。しかし、それと同等か或いはそれ以上に重要なのが腸のケアである。取り分け長期経過例においてはしかりである。長期の治療経過中には様々な運動合併症を併発するが、一般的に知られているのは、薬効の減弱、on/off現象、wearing/off現象などである。これらの背景には中枢のドーパミン受容体の感受性の変化がある。これらとは幾分異なった機序の運動合併症がある。数日前まで歩けていた患者が急に動けなくなる。そして持続する。on/offとは時間経過が異なる。そこでこの状態を急性持続性無動acute persistent akinesia(APA)と呼ぶこととする。

APAに遭遇した患者さんや家族の訴えは、2~3日前から急に動けなくなったとか、今朝から急に身動きがとれなくなり立てなくなった、寝返りも難しくなったなどと、やや困惑気味に語られることが多い。患者や家族はパニックに陥り、余儀なく緊急入院の事態もある。そうした時にまずパーキンソン病は元来急変する病気ではありませんと説明してパニックを和らげつつ、内心では当惑しながら原因を考えることとなる。

私がAPAの典型例に初めて出合ったのは国府台病院に於いてである(西宮仁医師担当)。その方は抗パ剤が全く効かなくなって、寝たきり状態で入院。寝返りも打てない状況が何日も続いた後、ある朝大量の排便のあとにスタスタと歩けるようになった。皆が目を丸くした。その後同様の事例に時々遭遇する。ある例では腹部単純XPで腸管全体に広がるバリウム像があった。また別の例では腹部CTで大量の便塊が確認された。いずれも排便処置で軽快した。便秘が薬の吸収を妨げるのである。このようにパーキンソン病の長期経過中には腸のケアが療養指導上の重要ポイントとなる。他方、便秘が関与しないAPAがある。鉄剤の投与である。そうした例では経口鉄剤を中止すれば好転する。

このようにAPAの機序は中枢の問題でなく、末梢での薬剤吸収障害や血中での抗パ剤の無効化が原因である。その特徴は(1)抗パ剤の変更や怠薬はないのに比較的急速に発現し持続する無動であって、(2)一般的な発熱や下痢、感染などの原因は見当たらない。そして(3)経過の長いパーキンソン病患者に見られることが多く、(4)慢性の便秘や何らかのきっかけ(お腹を冷やした、バリウム検査をうけたり、ストレスが重なったり)が見つかることが多い。更に(5)鉄剤の服用、高蛋白食などの誘因が存在する。このようにAPAの原因の殆どは慢性の頑固な便秘であり、対処法は腸のケアと排便処置である。

そうしたことから私は日頃から便秘の話をくどいほどすることにしている。まず、パーキンソン病は腸の病気ですと。次いで便秘の定義、腸内通過時間の簡便な確認方法、食材としての発酵食品、ビイフィジス菌、腹部の保温、排便習慣、軟下剤の使い方、鍼灸等である。そして蛇足に格言も「便秘大敵、バリウム飲むな、鉄分補給は食事(シジミやプルーン)から」と……。

 

 

鎌ケ谷総合病院千葉神経難病医療センター・難病脳内科 センター長 湯浅龍彦