日本神経筋疾患摂食・嚥下・栄養研究会

加齢に伴う嚥下機能の変化(2018/06)

 高齢者では加齢に伴い、嚥下機能の様々な生理的変化をきたします。解剖学的には舌骨上・下筋群の筋線維の萎縮、緊張の低下、靱帯の緩みにより、安静時の喉頭位置が下垂します。予備能力により咽頭期嚥下運動開始までに喉頭挙上距離を増加させることで代償しています。喉頭が下垂すると食塊の移動に対して喉頭挙上が相対的に遅れ、嚥下時の喉頭閉鎖が不十分となって誤嚥につながります。また、食道入口部の開大が制限されて咽頭残留が増加します。構造的に咽頭から気管入口部への角度が浅くなり、嚥下反射の惹起性が低下した際に誤嚥のリスクが増加することがあります。
喉頭挙上筋群や食塊駆動筋のほとんどは筋収縮が強く収縮速度が速いタイプ2線維が優位ですが、加齢に伴い筋収縮力が弱く収縮速度が遅いタイプ1線維へ変化すると報告されています。そのため、喉頭挙上の遅延や食塊駆動力の低下につながります。また、高齢者ではサルコペニア(コラム2012/11、2015/09、2017/10参照)を合併して筋肉量が減少することもあります。
一方、高齢者では脳卒中を合併することもあります。多発性脳梗塞による偽性球麻痺では口腔機能障害と嚥下反射の惹起遅延に対して増粘剤やゼリーなどを用いて嚥下訓練を行います。しかし、嚥下運動に関わる筋肉の筋力低下をきたした高齢者ではとろみをつけて食物の粘性が増すと,咽頭残留が増加して咽頭での通過障害をきたして誤嚥を引き起こすことがあります。
とろみ剤は万能ではなく,嚥下機能に合わせてとろみの濃度を調整する必要があります。食物の通過を妨げないような食形態の調整も必要です。
高齢者では、加齢に伴う嚥下機能の変化を考慮して、嚥下動態を十分に把握した上で、適切な食事を提供することが誤嚥を予防することにつながります。
参考:高齢者の摂食嚥下障害 ENTONI 2016年8月
Nishikubo K: Quantitative evaluation of age-related alteration of swallowing function: Videofluoroscopic and manometric studies. Auris Nasus Larynx. 2015 :42(2):134-8
諏訪赤十字病院 リハビリテーション科  巨島文子