日本神経筋疾患摂食・嚥下・栄養研究会

日本神経筋疾患
摂食・嚥下・栄養研究会とは

2018年度に当たり
本研究会の役割と目標

 

鎌ヶ谷総合病院、千葉神経難病医療センター・センター長
JSDNNM代表世話人
湯浅 龍彦

はじめに、先日ある人から進行性核上性麻痺(PSP)でしばしば食塊を頬張ったまま中々飲み込まないが、その理由は何かという質問を受けた。一瞬答えに窮した。摂食・嚥下という極めて日常茶飯の問題ではあるが、実は奥が深い。生命に直結し、かつ、脳の働きの主要な目的が生きることであってみれば、摂食・嚥下・栄養はその中核を占める命題である。

 

改めて、本学会は神経筋疾患摂食・嚥下・栄養研究会(JSDENNM)と称す。その目的は摂食(eating)・嚥下(deglutition)・栄養(nutrition)といったヒトの命の源泉を支える基本的機能に関わる神経機構とその障害機序を解明し、それらの障害に悩む人々に対策と安心を届けることである。これらの機能は命を支える中心的な働きをなし、感覚、運動、消化、生殖、判断、創造、芸術など広範な脳機能の連携の上に成り立つ。即ち、本研究会の対象は広く言えば食に纏わる様々な問題であると共にその背景にある脳とこころに及ぶ。本研究会の始まりは平成17年の夏、第一回長崎大会に遡る。会員は最初は国立病院機構関係者が大半であったが、現在は広く会員を募集していて、医師、看護師、栄養士、鍼灸師、PT/OT、言語、心理士、介護関係者、行政、企業会員等多職種に及ぶ。

 

昨年第13回学術集会(東京大会)は、二藤隆春大会長の下、伊藤謝恩ホール(東大構内)で開催された。その時、小山珠美氏から「多職種で繋ごう!食べる幸せへの包括的支援!」と題して最後まであきらめず口から食べて頂きます、食べさせます!といった特別講演を頂き、その篤き想いが会場を包んで、大いに盛り上がた。そして本年の第14回学術集会は、藤本保志(名大耳鼻科)大会長の下に10月27日に名古屋で開催される。そこでは、益田慎氏の「幼小児の摂食嚥下障碍」とのタイトルで発達期における嚥下の問題が取り上げられる。摂食・嚥下が幼少時期を通してどう獲得され発達するのか、大いに興味のある所であり、老齢期の患者における摂食・嚥下の諸問題を考える上でも大きなヒントになるであろうと期待される。

 

そこで冒頭の質問に戻って答えを考えて見た。まず食行為を順に並べてみることとした。食行動のきっかけは空腹感が引き金となる。空腹・満腹の中枢は視床下部にあり、ニューロペプチドYとグレリンが食欲を増進し、レプチンが食欲を抑える。そうして食べたいとの動機が高まると、何か食べものがないかと探索行動が始まる。何かを見つけた。するとこれは何だ、食べてよいのかどうか、触ってみて、匂いはどうかと嗅いでみて、視覚・触覚・嗅覚などを働かせて判断する。そして、どれから食べようか(背側視覚路)、よしこれなら食べれそう、食べよう(島回と前帯状回)、両手を伸ばす(補足運動野)、腕の構え、体制を整え、両手の動作を開始する、口唇の形状を整え、咥える。ここ迄が先行期である。通常であれば口に頬張った食塊は、速やかに咀嚼され、口腔内で触覚、温度覚などと共に味覚(五味)として感覚される。その結果、適度に噛み砕かれた食塊は嚥下され、咽頭部を経て食道へはこばれる。喉越しの味わい、胃袋に収まる感じ。前頭眼窩面に達した味覚や満腹感はそこで評価されて、満足感として報酬系(腹側線条体)に伝えられ食の悦びをもたらす。以上が一連の食行動である。今見たようにここには、多数の脳機能が動員されているし、脳の3大機能的ネットワーク、顕現ネットワーク、中央実行ネットワークそしてワーキングメモリー、デフォルトモードネットワークもフル活動している。こうした中で、「食塊を頬張ったまま中々飲み込まない」という事象の解釈は、注意散漫の印象もあるし、球麻痺とは考え難く、核上性麻痺の一環であると思われる。謂わば口腔から咽頭への食塊搬送におけるすくみ現象とも見做される。何か適切なキューを入れると改善の余地があろうかとも考える。こうした問題が現状では未解決である。本学会会員の経験とご意見を賜りたい。

 

この様に本学会がカバ―する分野は、人の生命の根幹をなす分野である。しかも背景にある神経筋疾患そのものが難病として多くの問題を抱えていて、患者や家族が直面する問題はより深刻である。加えて老年期の摂食・嚥下・栄養問題も加わり、人の尊厳、終末期医療への適切な助言など、本研究会への期待は年々増加すると考えられる。本会は会員一同の英知を結集し、新たな研究手段を工夫して、基礎・臨床の両面から病態解明と治療法の開発に向かって多角的多面的な研究を深化させて頂きたいと願う。

 

そうした訳で、最後に2018年度の目標を以下に述べる。まずは、研究会を学会に組織替えできるよう、役員の役割分担を明確にして機動力のある体制を整える。そして、HPなど情報発信のツールを強化刷新する。かくして会員皆和して活発な意見交換をしながら、本研究会の目的達成と会の発展の為に尽力願いたい。本研究会の発展を祈る。

2018年4月