日本神経筋疾患摂食・嚥下・栄養研究会

持続的クレンチング訓練の認知機能への影響(2022/04)

2020年8月のコラムにて,可及的最大努力での持続的クレンチング訓練が,咬合力のみならず咀嚼機能の向上に有効であることを述べました.この研究では,同じ被験者を対象に持続的クレンチングの認知機能に対する影響についても検討しました.運動が認知症予防に効果があることは,エビデンスレベル1B(エビデンスレベルは中程度,推奨グレードは強い)とされていますが,運動による予防法では,例えば東京都健康長寿医療研究センターのプログラムは,1日7~8000 歩または早歩き30分,週5日が推奨しており1),実行が難しいのが現状です.
一方,咀嚼機能の低下が認知機能の低下と関係することを示す報告234)や10分間の咀嚼運動が短期記憶テストの成績を改善するとの報告5)があり,この訓練法が認知機能の改善・維持に奏功するのではないかというのが研究背景です.
認知機能の評価は,検査時点での精神状態を評価するスクリーニングテストであるMMSE(30点満点で20点以下は認知症,せん妄,統合失調症の可能性が高いとされる)と記憶を中心とした認知機能検査ADAS-cog(0~70点で得点が高いほど障害が高度であることを示す)を用いて,研究を通じて同一の臨床心理士が行いました.結果の概要は,被験者7人のうち,MMSEの得点は5人,ADAS-cogの得点は6人が改善もしくは維持していました(詳細な結果は,時田佳代子,遠藤道代,舘村卓,他:特別養護老人ホーム入所者の認知機能に対する可及的最大努力でのプレート噛みしめ訓練の効果.日本認知症予防学会誌,10(2):21-27,2020.をご参照ください.)
神経筋疾患の摂食嚥下機能の改善に直接的に関係するかは患者様のご協力を得て試行する必要はあるとは思いますが,リハビリテ-ションや医療的ケアが進む結果,患者様が高齢化することは当然のことと思われ,認知機能の低下に伴う食物認知の問題からの障害を軽減する上では有用かと思っています.

1.東京都健康長寿医療センター研究所編:ウォーキングのすすめ.特定非営利活動法人認知症サポートセンター,東京,2009.
2. Tada A, et al.: Cognitive Status: A systematic review Archives of Gerontology and Geriatrics. 70,44, 2017.
3. Lexomboon D, et al.: Chewing Ability and Tooth Loss: Association with Cognitive Impairment in an Elderly Population Study. Journal of American Geriatric Society. 60,1951,2012.
4. Kopplina DC, et al.: Cognitive status of edentate elders wearing complete denture: Does quality of denture matter? Journal of Dentistry. 43, 1071,2015.
5. 富田美穂子,他:咀嚼が短期記憶能力に及ぼす効果.日口科誌.56,350,2007.

一般社団法人 TOUCH/TOUCH口腔機能回復センター

舘村 卓