アマンタジンはパーキンソン病患者の嚥下機能を改善するのか。(2025/06)
パーキンソン病(PD)における生命予後は、嚥下障害に関連する病態が関与し、その特徴として、家族や本人も気づかない不顕性誤嚥が挙げられる。現在PDの最も普遍的な治療としてレボドパ合剤の内服療法があるが、嚥下への効果は報告によって一定しない。アマンタジンは、「パーキンソン病治療ガイドライン2018」によると、PD患者のジスキネジアの軽減を目的に使用される。一方、本薬剤は脳卒中患者において誤嚥性肺炎を減少させることが報告されている(Lancet 353 : 1157, 1999)。しかし、嚥下造影(VF)や嚥下内視鏡などを用いた直接的な嚥下機能に関する報告はまれである。また、PD患者におけるアマンタジンの嚥下機能改善に関する報告は検索した限りないが、日本神経治療学会の発行した「神経疾患に伴う嚥下障害の標準治療」でその使用が推奨されている。最近、投与前後の嚥下機能をVFにて評価した3例のPD患者を経験した。症例は74歳の女性、83歳の女性、53歳の男性PD患者。すでにレボドパなどで治療中にアマンタジン (100-200 mg/日) を追加する前後でVFを行った。VFは臨床情報を盲検的に日本摂食嚥下リハビリテーション学会推奨尺度の抜粋、国際的なDysphagia Outcome and Severity Scale (DOSS) 、Penetration-Aspiration Scale (PAS) 、Pharyngeal transit time (PTT)、Oral transit time (OTT)を用いて後方視的に評価した。83歳例では口腔期の運動機能は改善しているが、PASが悪化して誤嚥が生じた。また、アマンタジンを中止すると、運動機能が戻り、誤嚥も消失した。残り2例では、PASは不変あるいは軽度改善したが、投与前から誤嚥があった例では消失するまでには至らなかった。アマンタジンの前後で、一部の嚥下指標では改善がみられる場合もあるが、PASが悪化する場合もあり、留意が必要である。なお、本コラムのVF所見などの詳細は2025年8月2日開催の第21回日本神経摂食嚥下・栄養学会 東京大会にて発表を予定している。
近畿大学 脳神経内科
平野牧人