日本神経筋疾患摂食・嚥下・栄養研究会

ニーマン・ピック病C型の嚥下障害(2014/01)

ニーマン・ピック病C型(Niemann-Pick Type C: NP-C)は常染色体劣性遺伝性の脂質代謝異常症で,知的機能の退行,歩行失調,ジストニアなどの不随意運動,垂直方向の核上性注視麻痺,てんかん発作,構音障害,嚥下障害,肝脾腫など,多彩な神経症状が現れる.発症は出生前から成人期までのいずれの時期でもありえ,進行性の経過をとり,死因は肺炎や窒息が多い.日本では20数例のNP-C患者の生存が確認されており(2014年1月現在),これは西欧の頻度に比べて少ないとされる.日本では2012年5月から,NP-Cに対する治療薬ミグルスタットが使用できるようになった.ミグルスタットはグルコシルセラミド合成酵素阻害薬であり,NP-Cの神経症状の増悪を抑制する効果がある.NP-Cの嚥下障害を改善することも報告されている(1).
摂食・嚥下の診療に従事する諸氏は,原因不明の神経症状と嚥下障害を合併した患者を見る機会は少なくないであろう.NP-Cは発症早期から嚥下機能が低下していることも多く,しばしば窒息を起こす.診断されていない嚥下障害患者の中にはNP-C患者がいる可能性はあり,臨床像からNP-Cを疑うためのスクリーニングツール「NP-C Suspicion Index」(http://www.npc-si.jp/public/)を,ぜひ参考にしていただきたい.NP-Cでは速やかに診断し,神経症状が悪くなる前に,治療を開始することが重要である.嚥下障害が進行する神経疾患の一つとして留意していただきたい.

1. Fecarotta S, Amitrano M, Romano A, et al. The videofluoroscopic swallowingstudy shows a sustained improvement of dysphagia in children with Niemann-Pickdisease type C after therapy with miglustat. American journal of medical geneticsPart A. 2011 Mar;155A(3):540-7.

国立精神・神経医療研究センター病院神経内科
山本敏之