日本神経筋疾患摂食・嚥下・栄養研究会

パーキンソン病とよだれ(2017/07)

 パーキンソン病(PD)におけるよだれ(流涎)は、患者さんの社交性を妨げると同時に、口腔内の清潔維持を困難にし、唾液の誤嚥さらに誤嚥性肺炎につながる症状として重要です。頻度は報告によって様々ですが、10-84%とされ1)、決してまれではないのですが、有効な治療に関する報告はそれほど多くないのが現状です。
一般に流涎の原因は、嚥下障害、姿勢異常(前屈)、閉口障害、唾液量増加などが挙げられます。PDでは、嚥下造影上の嚥下障害が流涎に関連するという報告があり、また、自発的な唾液嚥下回数が正常では1.18回/分がPDでは0.8回/分に減少しているとの報告もあります1),2)。姿勢異常や意図しない開口などが関与するともされています1)。唾液量はPDでは低下しているとされていますが、分泌スピードの上昇や後述のように薬剤の副作用で増加することがあります1)。2015年に中国から報告された518例のPD患者研究では、流涎患者は非流涎患者にくらべて運動症状と非運動症状がともに悪く、レボドパ換算量は多いとのことでした3)。流涎は特に構音障害、嚥下障害、あるいは物品呼称の低下と関連していました。trihexyphenidyl使用は流涎のない患者に多かったとのことです。以上のように、PDの流涎は運動症状、非運動症状、認知機能などに関連しますが、直接には嚥下障害が主因であると考えられています1)。
PDの流涎への対策として、運動障害悪化を伴う場合にパーキンソン病治療4),5)、姿勢障害では薬剤変更により改善しうると思われます。その他、副作用が疑われる薬剤の投与がある場合には、それらの減量・中止・変更が挙げられます。嚥下に悪影響を与える薬剤として、抗うつ薬や抗不安薬があります6)。唾液分泌過剰を来す薬剤としてdonepezilを含むコリンエステラーゼ阻害薬7)、clozapine、quetiapineなどがあります。また、流涎に対する特異的な薬剤として、ムスカリン作動性抗コリン薬があり、海外では、glycopyrrolate内服が有効とされています。上述のtryhexyphenidylは日本でも使用できますが、認知機能や幻覚などの副作用に注意が必要です。もちろん、過剰な唾液分泌抑制は嚥下障害を来します8)。その他、海外では降圧薬であるα2アドレナリン受容体作動薬clonidineが良いとの報告もあります1)。さらに、唾液腺へのボツリヌス注射(A型とB型)が有効との報告が海外で増加しています。以上のように、日本では、対策が遅れている感がありますが、PDが増加している現状を踏まえ、早急な対応が必要と考えられます。
文献
1. Parkinsonism Relat Disord. 2014; 20: 1109–18.
2. Dysphagia. 1996;11:259-64.
3. Parkinsonism Relat Disord 2015;21: 211e215.
4. Dysphagia. 2015;30:452-6
5. Clin Neurol Neurosurg. 2017;156:63-5
6. J Sugiura Foundation Dev Community Care 2014;3:30-33.
7. Int J Med Sci. 2015; 12: 811–24.
8. Ann Rehabil Med 2016;40:95-101.
近畿大学医学部神経内科   平野牧人