日本神経筋疾患摂食・嚥下・栄養研究会

大脳皮質基底核変性症の摂食嚥下障害(2025/11)

パーキンソン病類縁疾患の1つに大脳皮質基底核変性症(corticobasal degeneration:CBD)があります。公益財団法人難病医学研究財団/難病情報センターのHP(https://www.nanbyou.or.jp/)によれば、典型的には、(1)中年期以降に発症し、緩徐に進行、(2)大脳皮質徴候として肢節運動失行、観念運動失行、皮質性感覚障害、把握反応、他人の手徴候などが現れ、および(3)錐体外路徴候として無動・筋強剛やジストニア、ミオクローヌスが出現し、(4)これらの神経症候に顕著な左右差がみられる、とされています。なお、CBDの確定診断は病理解剖によって行われ、基準に合致する病理像を呈するのは,半数かそれ以下であるとされています。したがって、病理診断のない臨床的な報告で、上記の症状を呈する疾患群を大脳皮質基底核症候群(corticobasal syndrome:CBS)と呼称しています。

CBDの直接死因は肺炎が60%程度と報告1)2)されており、その背景として嚥下障害があるとされています。また、嚥下障害は発症後中央値5年で出現するとされていますが1)、重症度などの詳細は不明であり、主治医の記載に基づいているため嚥下検査を行ったかは分からず、窒息や(誤嚥性)肺炎があれば逆に嚥下障害があったとするとされております2)。このように、CBD/CBSの摂食嚥下障害の様式や詳細に関する先行研究は極めて少なく、重症例や経年変化の報告はほとんどありません。

海外での研究の1つにM.Grunhoら3)の嚥下造影検査(VF)を用いた報告があります。発症後約3年のCBS患者さん24名では、咽頭残留や食塊の送り込み障害、舌の運動障害が出現していましたが、誤嚥はなかったと述べています。また24名中23名が嚥下障害を自覚しており、最も多かったのは「食事の遅れ」や「嚥下時のムセ・窒息」でした。

我々の施設でも発症後約3年の9名のCBS患者さんを対象にVFを行った結果、舌の運動障害、咽頭への送り込み障害、咽頭収縮の低下、喉頭侵入などM.Grunhoらの報告と類似する所見を確認しましたが、不顕性誤嚥(ムセのない誤嚥)を認めた患者さんが3割存在しました。また嚥下障害の自覚がなくても、VF異常所見が見つかった患者さんもいました。

これらの結果は、CBSの嚥下障害は個人差が大きいこと、嚥下障害の自覚がないにもかかわらず誤嚥している患者さんが存在することを示しています。誤嚥は肺炎発症の最大のリスクです。CBSでは発症早期からVFで経時的に評価し、同時に食事場面の丁寧な観察や聴き取りを行い、安全に食事を続けるための対策を講じることが重要です。

引用文献

1)I. Aiba, et al:Brain Communications. Vol. 5, 2023,1-19

2)D.Tahara, et al:Journal of the Neurological Sciences. Vol. 466, 2024, 123212

3)M.Grunho, et al:Parkinsonism and Related Disorders. Vol. 21, 2015, 1342-1348

近畿大学病院リハビリテーション部 磯野 千春