日本神経筋疾患摂食・嚥下・栄養研究会

パーキンソン病における味覚障害((2018/02)

パーキンソン病の味覚障害は、他の非運動症状に比べて注目度は低いのですが、9〜27%と健常者の0〜1%に比して高率に認めます。早期のパーキンソン病においても約14%に認め、非運動症状をクラスター解析した検討では、胸痛、説明のつかない痛み、食後の膨満感とともに、感覚・自律神経異常の項目に含まれます。このため、その原因として薬剤の影響も考慮しないといけませんが、パーキンソン病の病変自体で出現しうると考えられています。パーキンソン病の味覚障害の特徴として、低い濃度の味が分かりづらい、舌の前方は敏感で後方は減弱しているとする報告があります。こうした味覚障害の特徴から迷走神経の障害が原因とする仮説もありますが、迷走神経を責任病巣とするとやや頻度が低いのではと思います。一方、最近の画像研究で、健常者において島は味の好みや濃さに重要な役割を果たすとの報告があります。パーキンソン病でも島病変は感覚や自律神経不全を含めた様々な非運動症状の発現に関係している可能性が示されています。また、軽度認知機能の低下したパーキンソン病例でも島におけるドパミン神経節前線維のシナプス小胞を可視化するDTBZトレーサーの集積が低下するとの報告も認めます。これまでパーキンソン病における味覚障害に着目した画像研究は、ほとんど行われていませんが、このような視点の研究で島の異常が検出する可能性があるのではと考えています。一見、対応法が無い症状でも、その仔細な病態が分かると良い対応方法が見つかってくることがあります。豊かな味覚を楽しむという人生最大の楽しみの1つをパーキンソン病患者さんから奪わないような工夫、介入、治療は、より良好な摂食、嚥下、栄養にも資する可能性があり、今後の研究、検討が待たれる分野ではないかと思います。
Pont-Sunyer C, Hotter A, Gaig C, et al. The onset of nonmotor symptoms in Parkinson’s disease (the ONSET PD study). Mov Disord. 2015;30:229-37.
Doty RL, Nsoesie MT, Chung I, et al. Taste function in early stage treated and untreated Parkinson’s disease. J Neurol. 2015;262:547-57.
Christopher L, Koshimori Y, Lang AE, et al. Uncovering the role of the insula in non-motor symptoms of Parkinson’s disease. Brain. 2014;137:2143-54.

名古屋大学医学系研究科 脳とこころの研究センター    渡辺 宏久