パーキンソン病の体重減少の原因は何か?(2025/10)
パーキンソン病の患者さんは体重が減るという問題がよく起こります。しかし、なぜ体重が減るのか、その詳しい理由はまだよくわかっていません。私達は、この謎を明らかにするために、パーキンソン病の患者さんの体の成分(体脂肪、筋、水分など)と、血液中にあるエネルギーに関わる物質の関係を調べました。
対象は、パーキンソン病の患者さん91人と、健康な方47人で、体成分の測定にはInBody770を用いました。また、超高速液体クロマトグラフ-タンデム質量分析計を用い、血液中にある、短鎖脂肪酸、中鎖脂肪酸、クエン酸回路の中間体、ケトン体、リン脂質などを詳しく調べました。
まず、パーキンソン病の患者さんは、健康な方と比べて、体重は軽く、BMIは低く、体脂肪が少ないことを確認しました。血液を調べると、解糖系の指標である乳酸や乳酸/ピルビン酸比、ミトコンドリアでエネルギー産生を行うクエン酸回路の活動性の指標となるコハク酸が低下していました。代わりに、脂肪をエネルギーとして使うための物質であるケトン体(アセト酢酸、3-ヒドロキシ酪酸)、アミノ酸が分解されてできる物質(2-ヒドロキシ酪酸、2-オキソ酪酸)、短鎖脂肪酸 (酢酸) が上昇していました。
特に、ケトン体(アセト酢酸と3-ヒドロキシ酪酸)の量はBMIと負の相関を示しました。これは、ケトン体が多い患者さんほど、痩せていることを意味し、脂肪を使ってエネルギーを生み出しているためと考えられます。また、ホスファチジルコリン(40:2)という脂質の一種も、パーキンソン病の患者さんで量が増加し、重症な方ほど高いことを明らかにしました。
以上の結果は、パーキンソン病の患者さんの体重減少は体脂肪の減少と関連しており、体脂肪が減る原因は、エネルギーの使い方の変化、つまり、体がブドウ糖をうまく使えなくなり、代わりに脂肪を燃やしてエネルギーを得ようとしている可能性が考えられました。その他に、食欲不振によるカロリー摂取量の減少、ジスキネジア(不随意運動)など、運動症状に伴うエネルギー消費の増加、薬が代謝に与える影響も考慮する必要があります。
この研究は、パーキンソン病の体重減少を防ぐために、栄養と代謝という視点からアプローチすることが大切であること示しています。適切なエネルギー管理が、今後の治療に役立つかもしれません。
藤田医科大学医学部脳神経内科学 渡辺宏久





