日本神経筋疾患摂食・嚥下・栄養研究会

多系統萎縮症における食事中の低血圧について(2019/12)

多系統萎縮症(multiple system atrophy: MSA)の嚥下障害は罹病期間や身体障害と関連しておらず,病初期から嚥下障害を合併している患者がいます[1].摂食嚥下障害は食事動作の問題や口腔からの送り込みの問題,咽頭期の問題など多岐にわたります.経口摂取するうえで注意しなければならない症状に起立性低血圧と食事性低血圧があります.
起立性低血圧はMSA患者の68-75%に現れ,起立時の失神やめまいで現れます.症状が進行すると臥位から座位になっても血圧が低下し,ときに失神することがあります.食事性低血圧は,食事摂取後2時間以内に血圧が下がる状態で,MSA患者で合併しやすいと言われています.
食事中に血圧が下がり,失神すると,食塊形成が不十分なまま不用意に咽頭へと送り込まれ,窒息や誤嚥を招く危険性が高くなります.
起立性低血圧による失神を避けるために,一気に体を起こさないようにします.また,食事を開始する前に血圧が安定していても,食事中にいきなり血圧が低下して失神することがあるので患者の変化に注意しましょう.
①食事動作が停止したままである,②声かけしても視線が合わずに反応が乏しい,③口の動きが止まったままである,これらの状態のときは低血圧が疑われますので血圧を測ります.経口摂取は一旦中止し,しばらく下肢を挙上させて状態が改善するまで待ちましょう.血圧が安定するまで時間がかかることもあります.
食事性低血圧を避けるためにできることは,①一度にたくさんの量を摂取するのではなく一回量を少なめにして,食事回数を増やす,②炭水化物を少なくし高たんぱく食にする,③飲みこみやすい食べ物を選ぶ,④少量で高カロリーが摂取できる濃厚流動食を食事の合間に摂取する,⑤塩分を含む食事やコーヒーなどカフェインを含む飲料を摂取するなどです.少しでも安全に食べるために心に留めておきましょう.
1.「脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン」作成委員会, 脊髄小脳変性症・多系統萎
縮症診療ガイドライン2018,ed. 日本神経学会. 2018, 東京: 南江堂.

国立精神・神経医療研究センター病院 看護部
臼井晴美