日本神経筋疾患摂食・嚥下・栄養研究会

摂食嚥下障害に対するオンライン診療の可能性(2020/09)

コロナがいまだに落ち着かない昨今ですので、皆様の臨床にも何らかの変化があったことと存じます。我々はオンライン診療が使えるという実感を得ているため今回紹介いたします。
オンライン診療を行うようになったきっかけは、摂食嚥下障害に対応できる医療機関の偏在です。医療機関の見える化のために我々は摂食嚥下関連医療資源マップ(http://www.swallowing.link/)を作成しました。しかし、足りていないところに医療資源がすぐに作られるわけではありませんので、当該医療の過疎地域に対応するためにオンライン診療を行う準備を始めました。Yadocというオンラインカルテ上の動画通話を利用し、患者側のスマホやタブレットとつないでいます。トライアルとして遠方とつないで数例評価を行ったのですが、意識レベル、体格や嚥下関連筋群の痩せ、姿勢、ADL、声、こちらからの問いかけに対する反応、耐久性、服薬内容と考えられる副作用、家族もしくは関連職種の希望や関係性などは動画のやり取りで見ていくことができます。そのためむしろ嚥下造影や嚥下内視鏡の映像のみを見せられるよりもずっと臨場感のある評価が可能だという印象をうけました。そのようにオンライン診療の有用性を少しずつ感じていた中、新型コロナ感染症の蔓延により本学の歯学部附属病院は基本的に全面閉鎖に至り、今まで丁寧にフォローアップしてきた患者さんをほっておくわけにはいきませんので、全面的にオンライン診療に切り替えました。数十回行いましたが予想に反することなく、オンラインによる診察は対面に著しく劣るようなことはありませんでした。
尚、データを取っているわけではなく、オンライン診療の手はずを整えられるという点などにもバイアスがかかっていると思われますが、オンライン診療でフォローアップできた患者さんの中には体調を崩された方はおられませんでした。その後、病院が再開することになりましたが、違った意味でもICTは活用できています。具体的には学生の教育のために在宅訪問診療場面に同行させることができなくなっているため、我々が訪問にいったときに大学とつないで訪問診療場面をオンラインで学生に見せることも始めました。むしろ単に同行見学をさせるよりも、こちらもしっかりと説明しないといけないなという意識も生まれるような気もしています。オンライン診療は様々な点で摂食嚥下の分野に親和性が高いと感じます。

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科  戸原 玄