日本神経筋疾患摂食・嚥下・栄養研究会

「摂食・嚥下・栄養のQOLと倫理を考える」(2019/06)

本学会は,ヒトの命の源泉を支える基本的機能に関かわる「摂食・嚥下・栄養の神経機構とその障害機序を
を解明し,そしてそれらの障害に悩む人々に対策と安心を届け,最終的にQOLを高めること」を目指しています.2019年10月19日(土),長良川国際会議場にて開催されます第15回岐阜大会では,「神経筋疾患患者さんのQOLを高める~倫理から栄養まで~」をスローガンに取りあげました.
QOLということばを選んだ理由は,「摂食・嚥下・栄養」そのものがQOLに直結しているからであり,本研究会の究極の目標がQOLにあるといっても過言でないと考えるためです.そして,今回,もう一つの言葉,「臨床倫理」を取り上げた理由は,ヒトの命に直結する摂食,嚥下・栄養であれば,それに係るあらゆる処置や技術が倫理の問題を本質的に内包すると考えるからです.この栄養と倫理,摂食障害に対する倫理面からの検討の歴史で有名なものとしてエリザベス・ボービア裁判(1986年)があります.ボービアは28歳女性で,生まれついての重度の脳性四肢麻痺のため顔や片側の数本の指を動かせるのみでしたが,聡明で意思表示能力は保たれていました.しかし自力で食事摂取ができないため餓死したいという意向を表明しましたが,十分な栄養補給のためにその意思に反して,経管栄養チューブが挿入されました.これに対し彼女は,治療を拒否することを求め,裁判を起こしました.そして控訴審における判決は「ボービアは残りの人生の尊厳を保証され,平穏に生きる権利を持つ.個人の尊厳とは,個人のプライバシー権の一部である」との理由で,経管栄養チューブを抜くように命じました.この判決は彼女に,彼女が求めていた安堵を与え,彼女は最終的に治療を引き続き受けることを決心しました.本例は意思表示能力が保たれていましたが,保たれていない場合にはどうするべきかという問題が生じます.このような食事・栄養の拒否の問題以外にも,主診療科はどこになるのか?とか,胃瘻や誤嚥防止術といった治療を巡る問題などさまざまな問題が横たわるのです.そうした訳で,私は今回の岐阜大会において,摂食嚥下障害の臨床倫理に詳しく,「摂食嚥下障害の倫理(ワールドプラニング社)」の著者である藤島一郎先生の特別講演を準備し,皆様と論議を深めて行きたいと考えました.
これまで,あまり議論されてこなかった臨床倫理や薬剤・服薬の問題,さらに神経変性疾患や認知症,歯科的アプローチをテーマに取り上げます.医師,看護師,栄養士,鍼灸師,PT/OT,言語,心理士,介護関係者,行政,企業会員等の多職種が一堂に会して,意見を戦わせて,議論を深めて行ければと願っています.
岐阜は名古屋から快速電車で20分と交通の便も良く,会場の近くには織田信長が居城した金華山や長良川温泉,風情のある川原町があり,翌日の観光にも適しています.飛騨牛や鮎などのグルメも楽しめます.翌日など飛騨高山に足を伸ばしてみても良いかもしれません.多数のご参加をお待ちしています.
岐阜大学大学院医学系研究科脳神経内科学分野
下畑 享良
1015日本神経筋疾患ポスター念校-001