日本神経筋疾患摂食・嚥下・栄養研究会

開口力測定の意味と可能性開口力測定の意味と可能性(2018/12)

嚥下機能を改善させるためには様々な訓練方法が存在するが、我々は過去に舌骨上筋の“開口筋”としての機能に着目した。つまり、ゴクンと飲む嚥下反射は反射運動であるために、反射の際に収縮する筋肉を直接鍛えることは困難であるが、その開口をトレーニングとして利用することができないかということである。その結果、アイソメトリックな開口運動が嚥下反射時の舌骨の挙上を改善させることがわかった1)。さらに開口力測定器を作成して様々な調査を行ったところ、高齢者の開口力は若年者より低いこと2)、嚥下障害のスクリーニングに開口力が利用できること3)、男性はサルコペニアだと開口力が落ちるが女性にはその傾向はないこと4)、男性は開口力が弱いと舌骨の位置が低いが女性にはその傾向はないこと5)、開口力とオトガイ舌骨筋の太さには関連があること6)、早い開口運動を行うことでも嚥下機能改善の効果があること7)、健常高齢者では男性は80台で開口力が低下するものの女性にはその傾向はないこと8)などさまざまな知見が得られた。
従来ものを食べるときには噛む力が大切であるとされ、顎を閉じるときの動きや力に着目されてきたが、実は飲み込むときには顎を開ける方向の力を保つことが大切であるということになる。その他、口腔周囲筋と全身の筋量や筋肉の関連は従来骨格筋、つまり腕や足の筋肉との関連が検討されてきたが、我々の検討の結果嚥下関連筋は腕や足よりも体幹の筋肉の方が関連が強いということも示された9)。臨床場面を振り返っても、仮に歩けなかったとしても完全な寝たきりより座ることができる患者の方が嚥下はよいし、座れる場合でも端座位が取れない患者より取ることができる患者のほうが嚥下の状態はよい。実際の患者に対する評価や訓練方法に知見を活かすことができるだけではなく、近年特に注目されている予防的な介入、つまりフレイルの視点からも舌骨上筋の筋力や筋量を保つこと、そしてそのためには体幹を保つことが重要であると考えられる。
引用文献
1. Wada S, Tohara H, et al, Arch Phys Med Rehabil, 93: 1995-1999, 2012
2. Iida T, Tohara Het al, Tohoku J Exp Med, 231: 223-228, 2013
3. Hara K, Tohara H, et al, Arch Phys Med Rehabil, 95: 867-74, 2014
4. Machida N, Tohara H, GGI, 17: 295-301 2016
5. Shinozaki H, Tohara H, Clin Interv Aging, 12: 629-634, 2017
6. Kajisa E, Tohara H , J Oral Rehabil, 45: 222-227, 2018
7. Matsubara M, Tohara H, et al: Clin Interv Aging, 13: 125-131, 2018
8. Hara K, Haruka T, et al, Arch Gerontol Geriatr, 78: 64-70, 2018
9. Yoshimi K, Hara K, et al, Arch Gerontol Geriatr, 79: 21-26, 2018

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科老化制御学系口腔老化制御学講座高齢者歯科学分野
准教授 戸原玄