日本神経筋疾患摂食・嚥下・栄養研究会

ALSにおける栄養療法 UP TO DATE 2(2015/10)

筋萎縮性側索硬化症(ALS)における体重減少が独立した生命予後規定因子であることは以前にも紹介させていただきましたが,栄養療法に関してこの1年で幾つかの進展がありましたのでご紹介します。
まず,米国のマサチューセッツ総合病院主催の高カロリー栄養療法の治験結果が報告されました(Lancet 2014; 383: 2075-72)。2009年12月から2014年11月まで行われた無作為による第2相二重盲検臨床試験の結果で,胃瘻造設後のALS患者における高脂肪高カロリー食,高炭水化物高カロリー食の安全性と効果に関する論文です。それによりますと,高脂肪高カロリー食群はコントロール群と生命予後には差はありませんでしたが,高炭水化物高カロリー食群では有意に生命予後の改善を認めたとされています。まだ第2相試験のため症例数が少なく確定的なことは言えませんが,高カロリー療法が生命予後をも改善させるかもしれないという画期的な報告です。リルゾールによる生命予後改善効果は3ヶ月程度とされていますが,それと同等,もしくはそれ以上の効果が認められるとすれば,費用対効果という意味では治療の第一選択肢になるかもしれません。
もう一つは,英国のProGas Studyグループによる胃瘻に関する報告で,「経皮内視鏡的胃瘻造設(PEG)」と,内視鏡を使わないで胃瘻を作る「放射線誘導下胃瘻造設(RIG)」,「経口的画像誘導下胃瘻造設(PIG)」による造設後の生命予後に対する影響の比較研究です(Lancet Neurol 2015; 14: 709-2)。多数例における胃瘻造設の効果の前方視的研究は初めてであり,これによると三者間に有意差はなかったとされています。内視鏡技術が発達した本邦においては,RIG,PIGはまったく普及しておらず,もっぱらダイレクト法によるPEGが主流ですが,本邦においてPEGに関する前方視的研究は皆無で,今後の検証が必要です。胃瘻を介した栄養療法はALS患者における生命予後の改善とQOL向上に重要だと考えられていますが,いかにエビデンスに基づいた質の高い医療を提供できるかが問われており,日本におけるALS診療が足元をすくわれないように,今後データの蓄積と公表が必須であろうかと思われます。

東京都立神経病院 脳神経内科

清水俊夫